あれ…? ひょっとしてなんか不穏な流れになってる……?

「面倒臭い前置きや世辞は余、いや、私も好きではなくてな。手っ取り早く話を済まそう。今回貴殿らに来てもらったのは他でもない。我が国における農に関する指導を任せたいのだ。


詳しいことはここにいるトランゼンベスから聞いてくれ。


この者は、我が国の農耕についての責任者で識者でもある。恥ずかしながら私は農に関する知識に疎くてな。私には難しい話も彼なら分かるだろう。貴殿らの窓口としての任も既に与えている」


そう言って紹介されたのは、上品そうでいかにも知的レベルの高そうな、大学の教授っぽい感じの白髪交じりの紳士だった。


「トランゼンベス卿は、わが国創建の頃からの一の家臣である貴族の家の生まれで、十を超える国々で農耕についての知識を学んだ才人かつ、父の恩師でもある人物だ」


と、後からメロエリータが解説してくれた。なるほど彼が私達を管轄する役所の大臣、いや、別に専門知識がなくてもなれる大臣よりは省庁のトップである事務次官に近い感じかもしれない。むしろ大臣と事務次官を合わせたような存在か? こりゃある意味では王様以上に私達にとっては重要な相手なのかな。


彼は私達の前に歩み出て、静かだけど重みのある声で話し始めた。


「カリン・スクスミ殿。貴殿が我々の前に示してくださったアイデアは大変に目を見張るものでありました。人肥を用いた手法はかねてより研究の対象ではありましたが、扱いが難しく失敗の連続でした。しかし、貴殿はその仕組みそのものを解き明かし、確実に有効で安定した質を持つ<堆肥>の発明に成功した。これは、わが国最高の勲章にすら匹敵するほどの功績です。


しかも貴殿は、その堆肥を安定的に生産・供給する為の手段も含めて編み出された。この老骨が四十年に渡って求めてきたものを、貴殿は私の半分にも満たない人生の中で編み出された。その事実に、私は、嫉妬の念すら禁じ得ない……」


そこで言葉を区切り、静かだけど射るような鋭い眼光で真っ直ぐに見詰めてくるトランゼンベス卿を前にして、私の背中を冷たいものが奔り抜ける。


あれ…? ひょっとしてなんか不穏な流れになってる……?


正直、そう思った。これはあれだ、<出る杭は叩かれる>パターンってこと……?


だけど、思わずごくりと喉を鳴らした私に、トランゼンベス卿は表情を崩さずに言った。


「されど、この国の真の利益を思えば、私の個人的な浅慮など物の数ではありません。我が国に現れた本物の才を活かすことこそが忠臣たる我らの務め。これより私は、貴殿を支えその力を存分に振るっていただけるように尽力いたします」


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