発芽の章
一国の最高権力者に拝謁賜るなんて生まれて初めての経験だったから
シャフセンバルト卿の領地内でのそれは、驚くほどに順調だった。クレガマトレンとレンガトレントでもそうだったけど、卿が領民に基本的に慕われてることがやっぱりいい形で影響したんだと思う。こうやって領主との関係が良好だというのが結局は得になるんだってしみじみ思った。
すると、秋の風が吹き始めたと感じた頃、私達はこの国、ファルトバウゼン王国の国王、フランジェスタ・ミ・レデウス・ファルトバウゼン陛下に謁見を許されることになったのだった。
シャフセンバルト卿は、貴族としてはフランクで畏まった人じゃなかったけれど、さすがに国王が相手となると改まるしかなかった。
一国の最高権力者に拝謁賜るなんて生まれて初めての経験だったから、私もガッチガチに緊張してた。何か失礼なことがあったら私だけじゃなくてアウラクレアやメロエリータまで巻き添えを食らうことになるかもしれないし、カリン商会に何かがあればリレ達だってただじゃ済まない。
正直、謁見の間で高いところに座してた陛下を前にしてのやり取りの内容については、殆ど覚えてなかった。たぶん、メロエリータが上手く誘導してくれたのに乗っかって、操り人形みたいに話してただけだと思う。
でもそれは、臣下の前で威厳と権威を現し範を示さなければならない国家元首としての立場としてのことらしかった。
だって、その後の、陛下とごくごく近い一部の家臣達だけになった国王の執務室に移ると、
「ははは! 貴殿が噂の御人か! 高名は常々窺っておる! 是非ともお目にかかりたいと思っていたのだ!」
とか、<いかにも王様>って感じの立派な髭を蓄えた気難しそうなお爺ちゃんだった国王が、まるで子供みたいにはしゃぎながら私に握手を求めてきたから。
え…? えええ~っ!?
って感じだったわよ。
だけど、ファルトバウゼン王国って、元々割とそういうノリの国だったんだって。国の成り立ちからしてそもそもが戦争から逃れてまだ未開の土地だったここに集まった人達がお互いに力を合わせて生き延びようとして、共助の精神で結束した中から自然発生みたいな形で生まれたのが最初の王様、初代ファルトバウゼン王だったそうだし。
まあその後、国としての体裁が整い始める間にいろいろメンドクサイ習わしや規則や体裁が出来上がってきちゃったそうだけど、基本的には、<近所の面倒見のいいオジサン>的な気質が代々引き継がれてきたらしい。
それでいて、かつては散々辛酸を舐めてきたこともあってただ単に人がいいだけじゃない一面も持ち合わせてたから、周囲の国々ともいろんな意味で協力体制を作り上げ、五十年も戦争をせずに済んできたそうなのだった。
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