次々と事業を広げるだけじゃなくて、足元もしっかり固めなくちゃね

レンガトレントについては、町の規模が若干大きいだけで、住人の数と農地の比率も、農地そのものの状態も、クレガマトレンと殆ど違いがなかった。だからこちらでやってることをきちんと真似してもらえればそれで大きな問題は出ない筈だ。


それに何より、メロエリータが<カレン商会>の後ろ盾になったことで無駄に逆らおうっていう動きもなかった。


シャフセンバルト卿が、貴族としては割と真っ当で、領民の感情も悪くなかった、って言うか概ね敬愛されてることがいい形に影響したと思う。これが、領民から反発を受けてるような貴族だったらこんなに上手くいかなかったかもしれない。この辺りも私は恵まれてたんじゃないかな。


私とアウラクレアとメロエリータが、レンガトレントの方の農民達の指導に出てる間、リレ達が堆肥の回収と運搬をきっちりしてくれてて、しかも、マイトバッハ町長のお触れ通り、私の奴隷達への嫌がらせや妨害もなかった。


奴隷に対してはどうしても見下すようなものの見方をしていたバンクハンマ達も、すごく真面目で決められたとおりに仕事をこなす私の奴隷達に対しては、「真面目にやってるじゃねーか」ってことで見直してくれたみたい。


と言うのも、奴隷はどうしても劣悪な労働環境で酷使される傾向にあり、その所為で体力が低下していたり精神的に病んだりしていて十分に仕事がこなせないことが多く、だから『人並みの仕事も満足にこなせない』という先入観が生まれていたというのもあった。どうしようもない奴隷は『処分』して新しいのを仕入れればいいだけなので、そういうものという固定観念も出来上がってしまってたようだ。


だからこそ私は、リレに命令して、奴隷達の食事と体調管理を徹底させたんだ。


「食事はしっかりととること。睡眠もしっかりとること。体調を崩してる子がいたら無理をさせずに私に報告すること。五日働いたら一日休みをとること」


ってね。


今はまだ『奴隷は道具として扱う』という建前は維持しつつ、実際には人間として当たり前の労働環境を整えることで状態を良好に保つことを心掛けた。


その上で、奴隷業者が売れ残った奴隷を売りに来るとそれを買い取り、シフトを組んで休日と体調を崩した子が出た時の対応ができるようにした。


奴隷達の管理監督は、リレに一任してる。彼女は本当に頭も良くて私の指示したことの意味と意義を理解してくれて、完璧にシステムを動かしてくれていた。


そうしてるうちに、リレと同じくらいの能力を持った子も現れて、リレの仕事を学び取ってくれた。


その子の名前はラミ。右脚が上手く動かなくてそれで売れ残った奴隷だった。


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