ウンチで堆肥ばっかり作ってた訳じゃなくて、魔法使いとしても仕事してたよ

なんて、ちょっと重い感じの話だったかもだけど、実際にはまあ割とのんびりしたものだったと思う。この町は元々治安も良くて住人も比較的穏やかで、この世界の中ではかなりマシな部類に入るらしいから。


その町で、私は、魔法使いだったネローシェシカの弟子ということで、魔法使いとしての仕事もしてたのだった。


魔法使いの仕事というのは、<まじない>とかもそうなんだけど、実は<医者>としての側面がすごく大きかった。だから町で唯一の魔法使いであるネローシェシカが亡くなったことは、非常に大きな問題でもあったのだ。


でも、私に魔法の適正があったことで、魔法使いとしての試験を一発合格。正式に仕事として使うことができた。


で、その仕事としては、医者としての側面もあるというとおり、怪我や病気を魔法によって治療するというのもその一つだった。


と言っても、魔法も決して万能じゃない。微生物に働きかけることで具現化するということは、微生物を介しない現象は起こせないということでもある。細菌やウイルスが原因の病気には強いけど、人間の体に住む微生物の働きを整えて回復力をいくらか高めるという形でしか治療できない怪我とかは、普通の医者の方が向いていた。魔法使いは、医師が治療した後にその回復を早めるって感じかな。


私に医学の知識があればいっそのこと医者も兼任して良かったとは思いつつ、正直、そこまでじゃないからなあ。


けどまあ、魔法使いとしての仕事があることで、売れ残った奴隷達を買ったり、廃屋同然とはいえ家を買ったりできたんだけどね。


ウンチを堆肥として利用することを事業化するのを主軸に据えながらも、魔法使いとしての研鑽も怠らないようにはしてた。特に、細菌やウイルスが原因の病気についての研究は重要だった。


ただ、青かびを原料にペニシリンが作れるというのは知っていても、実はどういう原理でそれができるのかを詳しくは知らなかった。その辺りが分かっていれば、ペニシリンを作ることだってできたのに、向こうにいた頃はそこまで頭が回らなかった。


だから、微生物に直接働きかけることができるこの世界の魔法の方を極めることで、事実上の抗生物質と同等の効果を魔法によってもたらすことを目指した。


あくまで、本業の傍らでだけどね。


そして今日も、熱が高くてなかなか治まらないという男の子が連れてこられた。魔法を使った<法診>で、肺炎を起こしてることが分かった。細菌が原因の肺炎だ。しかも、今まさに細菌が肺を攻撃してる状態だった。これじゃ炎症が治まる訳がない。


炎症を引き起こしてる細菌に働きかけ、力を弱まらせると同時に、体内に元々いる細菌の働きを整えて抵抗力を強化。炎症を抑えるようにする。


こうしてその子は、何とか峠を越して快方に向かったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る