いきなり他人の顔を『面白い』とか、どんな躾受けてきたんじゃこのクソガキ!

前にも言ったけど、この世界では、魔法でウンチを処理する方法が定着してしまって、それを肥料として使うという発想が殆ど広まってなかった。だから私の考えたことがハマった。それこそ、欠けてたパズルのピースが見付かったみたいに。もしそうじゃなかったら、ここまで上手くはいかなかったと思う。


バンクハンマの畑から始まったそれは、今年の全ての作付が終わるまでにはこの町の周辺の農家全部が取り入れてくれて、そして収穫量はいつもの一・三倍くらいになったって話だった。


実はここまでの間にはちょっとした紆余曲折もあって、最初から完全に足並みが揃ってた訳でもなかったけどね。


クライレドネの兄のクライベルケが、


「余所者の言うこと真に受けるとか有り得ねーよ」


とか言って協力する姿勢を見せてくれなかったりもした。だけど、私が魔法使いとしてもちゃんと仕事をしようとしてるのを見て、


「まあ、試してやるくらいなら…」


って言ってくれたのよね。そのクライベルケが評価してくれた<魔法使いとしての仕事>というのが、先日の、肺炎を起こしてた子を助けることができたっていう件と同じようにして子供を救えたというものだった。その子供というのが、クライベルケの息子だったというね。


何という見事なツンデレ。しかも今じゃ、バンクハンマ以上に私に協力してくれるんだから、やっぱり仕事は真面目にするべきってことかしら。


だけどこの町での試みが上手くいったのは、私一人の力じゃない。アウラクレアやリレやバンクハンマやマイトバッハ町長や奴隷の子達の力があってこそのものだ。


そして、町として例年よりも多くの税を、ここを治めてる貴族に収めることができた。


するとその貴族も、例年以上の兵站を用意できたことで国王から褒められたらしいという話が伝わってきた。


この世界では<食べ物を腐りにくくする魔法>があることで生鮮食品の流通が既に確立されてて、かつ兵站としての食料の確保が重視されてた。


これにより、ここを治めていた貴族のシャフセンバルト卿が町に対して関心を持って、それが卿の末娘を動かすことになったみたい。


で、御大層な馬車でいきなり家の前に乗りつけて、お付きの人の制止も振り切って私の前に飛び出してきた、上等そうなドレスを纏った女の子が、


「私の名はメロエリータ。お前が噂の異邦人か! へー、面白い顔をしてるな!」


とかいきなり言ったのだ。


そりゃね、だしぬけにそんなこと言われたら私だってムカつくわよ。


『誰が<面白い顔>じゃ! このクソガキが!』


とも思ったわよ。でも、いかにも上等そうなドレスを纏ったその姿を見たら誰でもそれが貴族の娘だって分かると思う。


だから私も、


「これはこれは、ご機嫌麗しゅう、レディ・メロエリータ」


と応えてたのだった。


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