目的を見失うのはまずいけど、少しくらいはね
この世界における奴隷は、これは地球でもそうだったかもしれないけど基本的には牛や馬と近いものだった。ただ、牛や馬よりも割と手に入りやすいということから、むしろ価値としては低いんだと思う。実際、値段も牛や馬の方が高い。
そして、何だかんだと大事にされる牛や馬に対して、奴隷は、本当は人間だからこそそうしやすいのか、憂さ晴らしやストレス転嫁の対象にされる傾向があった。要するに、<自分より立場の弱い相手をいたぶってストレス解消>っていうあれね。
だから、堆肥の回収を担ってもらってる子達にもそういう危険があった。実際、子供に石をぶつけられたりとか、何もしてないのに急に大人に怒鳴られたりってこともあったらしい。
そこで私は、マイトバッハ町長に相談した。
「うちの奴隷達は、牛や馬と同等の大事な<道具>です。せめて牛や馬と同じ程度の扱いをしてもらえるようにしてください」
ってね。
すると彼も、
「分かりました。私の名前であなたの奴隷達には手出ししないように通達を出しましょう。他人の牛や馬に暴力を働いた者は逮捕されます。それと同じ扱いということでよろしいですか?」
と応じてくれた。
実は、マイトバッハ町長自身も、奴隷制度を快く思ってない人間の一人だった。ネローシェシカが奴隷を見下さないのも、生徒時代に彼の影響を受けたかららしい。とは言え、彼一人の力じゃ制度を変えることはできないから仕方なくそのままにしていたけれど、理由さえあれば奴隷に対する扱いを少しでも改善したいという想いもあったそうだ。
「私は、自分の無力さが恨めしい……ですが、あなたのような人がいるのなら、私も希望を捨てずにいられる。
私達の代ではそれを成し遂げられなくても、いつか子孫達が実現してくれるかもしれない」
それを単なる夢想だと笑うのは簡単だ。だけど地球でも、旧来の奴隷制度は無くなった。今でも形を変えて存在してるとしても、それこそ何千年も続いたであろう奴隷制度を変えることができたんだ。今なお残るそれだって、いつかは解消されるかもしれない。
『無理だ』『不可能だ』と、努力もしないで言ってる奴らの甘ったれた寝言なんて知ったことじゃない!
と思える人がいる限り、時間はかかってもいつかはって思えるかな。
私も、自分にできることをしよう。こうやって町長に『牛や馬以下の扱いだった奴隷を、牛や馬と同等程度の扱いとする』と約束してもらえたんだ。
そして実際、町民に対して<お触れ>を出して、堆肥を回収し運搬する奴隷に対しては牛馬と同じ扱いとし、それを傷付けた者は町に損害を与えたものとして逮捕すると広めてくれたのだった。
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