言われた通りにやれることと、言われた意味を理解してやれることは、似て非なるよね
リレや、私の大学時代の先輩のように顔に目立った病変や奇形がある人のことを<ユニークフェイス>と言うらしい。実に失礼な言葉だと個人的には思うけど、まあ細かい呼び名とかはこの際どうでもいい。私も大学で先輩と知り合うまではそれについてちゃんと考えたことがなかった。
先輩の顔も、リレと同じく、いや、彼女以上に単純性血管腫もしくは毛細血管奇形(ポートワイン色病変)と呼ばれる痣で覆われてた。リレが三分の二なら、先輩は四分の三以上かな。でも先輩は、そんなものを『ガハハ!』と笑い飛ばす豪快な女性だった。
『顔で選ぶような男はそれこそこっちからお断りよ!』と笑ってた。そしてそんな先輩には彼氏がいた。その彼も『俺の女は世界で一番の美女だよ。お前らにはそれが分からんか?』と笑う豪放磊落な人だった。こんなお似合いのカップル、見たことないと思った。
だから私もそれに倣うの。
私にさえなるべく顔を隠そうとして俯くリレに対して、
「あなたのそれは<穢れ>でも<呪い>でもない。私はそれを知ってるの。他の人間がそう思ってても、私はそうは思わない。だからリレ、私の顔はちゃんと見て。私の顔をちゃんと見て、私の指示をちゃんと理解して。これは命令よ」
ときっぱりと言った。
まあ、だからってすぐに顔を上げられるほど、ずっと蔑まれてきた彼女の心の傷が癒えるなんて都合よくはいかないけど、一ヶ月も経つ頃には、取り敢えず私の前では俯くことはなくなってたかな。
リレはとても真面目で勤勉だった。そして頭もいい。私の指示を的確に理解して確実に実行してくれた。井戸と川の水を汲んで庭の池に入れるその意味を理解してやってくれてた。
川から水を汲んで戻る途中、家のすぐ近くまで来たところで、うっかり躓いて水をこぼしてしまった。ここでもし、ただ池に水を入れればいいだけと理解してたら手近なところで水を汲みなおして入れたりするところを、リレはわざわざ川まで戻って汲んできてくれた。
「家の近くの川で水を汲もうとは思わなかったの?」
家の中からその様子を見てた私は彼女にそう訊いた。家のすぐ裏にも川は流れてるけど、私はバンクハンマの畑のすぐ近くを流れてる川の下流で汲んでくるように指示してたから。すると彼女は、
「ご主人様は向こうの川の水の汚れを調べる為とおっしゃっていました。だから向こうの川の水じゃないと意味がないと思いました」
だって。意味や意義を理解した上でやってくれてたんだ。
まさかここまで優秀な人材だとは思わなかった。奴隷だから教育らしい教育なんて受けてない筈。精々、ただ雑用がちゃんとできてくれればいいと思ってただけなのに。
こういう人材を単に<奴隷>として使い潰すこの社会は、むしろ非合理的だと私は思う。貴族や王族の家系に生まれついたというだけで能力に見合わない役目を与えられてそれに胡坐をかいてるような者が支配階級じゃ、なるほど戦争で農地や人材を略奪するくらいしか発展させる方法を見付けられないわよね。
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