正直、現代にだって奴隷制度は形を変えて残ってるわよね

「カリン……かあ様が奴隷を嫌ってたのは知ってるでしょう? なのにどうして奴隷なんて…」


私が奴隷商人を紹介して欲しいと言ったら、アウラクレアはそう言って明らかに不服そうな顔をした。でも、アウラクレアは勘違いしている。実の母親のことなのに。


ネローシェシカは奴隷を『嫌っていた』訳じゃない。奴隷を使うことを快く思ってなかっただけだ。この世界に身寄りのない私は、彼女に拾ってもらわなければ娼婦か奴隷になるしかなかった。その話になった時、彼女は言ってくれたのだ。


『あなたを奴隷になんてしないわ。私がさせない』


って。彼女は奴隷を使わなくて済む世界を望んでた。でも、たとえ魔法使いでも世界に根付いた制度を変えてしまうのは容易じゃなかった。だから受け入れるしかなかった。それだけだよ。


でも私は、ネローシェシカとは別のやり方をする。敢えて奴隷を上手く利用してね。


奴隷は、一度買えばあとはどうしようが所有者の勝手だった。だから安価な労働力になる。資力に乏しい今の私にはそれは大きな魅力だった。そして、リレのように処分寸前の奴隷に仕事を与え生き永らえさせることにもなる。


男性の奴隷はそれこそ力仕事とか危険な仕事をやらせるのに向いているから売れ残ることは滅多にない。売れ残るのは大抵、リレのように見た目に大きな難があったりする女性だ。力仕事にも向かず、多少なりとも他人と接触する仕事をさせるにも見た目は大事だ。リレのような生まれつき痣がある場合とかはそれこそ<穢れ>や<呪い>だと思われて忌避される。だから売れにくい。四肢欠損なんかの場合には、そもそも奴隷にすらなれず<処分>されることも多い。


それもこの世界の<現実>だ。


アウラクレアはこの世界に生まれつき、当たり前のように奴隷というものを周囲の人間がどう見てるかというのを肌で感じながら育ってきた。母親のネローシェシカは奴隷を蔑んだりしていなかったけど、たとえ親子であっても親の思うとおりに育ってくれるとは限らない。私だって、両親にとって都合のいい人間には育たなかった。


それでも、アウラクレアは奴隷を蔑まない母親を間近で見て育ってきてたからか、普通の人ほどは奴隷に対して露骨に横暴な態度は取らなかった。見下してはいても、直接罵ったり暴力を振るったりはしない。今はそれでいい。


「リレ。私は仕事さえちゃんとしてくれればあなたを痛めつけたりしない。私の言うことをきちんと守ってね」


「は、はい、ご主人様…!」


私は、リレの顔の三分の二以上を覆う赤ワイン色の痣を見ながらそう言った。それはたぶん、単純性血管腫もしくは毛細血管奇形(ポートワイン色病変)と呼ばれるものだと思う。大学の先輩の顔にあった痣と同じものに見えたのだった。


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