第27話 結果
(ほんと、めんどくさい)
舞と別れて席に着いたあと、一人で内心でぼやく。想像以上に自分の心は冷えていた。
いつもなら表情を作る余裕があるが、そんな余裕はなかった。言いようのないイラつきが燻り、蟠る。
腕を机につき、右手で額を抑えながら、下を向いてため息を吐く。
舞がここまであからさまにやるようになったのは俺が原因だ。
どうして忘れていたのか。一人の女の子と親しくなってろくなことなど一度も起きたことないというのに。
これまで特定の女子と親しくしないようにしていた。自分が特定の女子と親しくて良いことは起きないから。
中学の時にも同じようなことが起きた。
別に意識していない一人の女の子とたまたま話が合って、かなり親しくする時があった。
その時も俺に好意を寄せていたクラスの中心にいる女子がその子をはぶり始めた。
本人を注意したところで止まるわけがない。より一層苛烈になるだけだった。俺が見えないところで。俺が知らないところで。
結局、自分がその子と距離を置くことで、一応のことなきを得た。
その時の経験から、人当たり良く、でも親しくならない程度の付き合いを続けてきたというのに。
どうして一緒に出かけるなんてことをしてしまったのか。
理由は分かっている。
八代さんと一緒にいる時間が楽しかったのだ。もっと一緒にいることを望むほどに。
気を使うこともなく、ただのんびりと気を抜いて話していられる相手。裏表も、相手の意図も考える必要もない。
そんな八代さんといる時間にとても救われていた。
だからこそ、こんな過ちを犯してしまったのだろう。
----俺と八代さんの関係を舞が知れば、必ず八代さんのクラスでの立場はより低くなるというのに。
放課後、日常となりつつある被服室に向かう。既に八代さんは来ていて作業を進めていた。
ミシンの機械音だけが響く部屋で、黙々と作業を進め続ける八代さん。その背中は小さくか細い。
八代さんがか弱い女の子である。その事実が胸に刺さる。
「……ごめん。手伝いを呼んでこれなくて」
「構いませんよ。元々無理なことは分かっていましたし」
洋服の材料の布を2枚重ねて、綺麗に縫っていく。こっちを見ることなく、その視線は手元に注がれている。
そこに今朝のことを気にしている様子はない。ただ淡々と言葉を零す。
「……それに、この前出かけたやつ、あれのせいでさらに八代さんの立場悪くなっているし。悪い。ああいう可能性があることわかっていたのに」
「何言ってるんですか。別に一緒に出かけたことは後悔してませんよ。とても楽しかったですし」
「いや、でもな……」
あんなに好き勝手言われて良い気分なことはないだろう。
少なくとも俺と出かけなければ、あんなことを言われる必要なかった。
もしかしたら手伝いぐらいは来てもらえたかもしれないのに。そう思うと顔を上げられなかった。
じっと手元を生地だけを見つめて、ハサミで指定された通りに切り抜いていく。
「……とにかく、手伝いが期待できない以上、頑張るしかありません。すみませんが一条さん。手を貸してください」
「……ああ、もちろん」
沈み込む空気の中、重い言葉が俺と八代さんの間で交わされた。
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