第21話 待ち合わせ

「じゃあ、いってきます」


 約束の日曜日。時間に余裕を持って家を出た。


 八代さんの予想通り、午前中は寝て過ごしてしまった。どうして分かったのだろうか? やはり八代さんの超能力は恐るべし。


 事前に決めておいた集合場所は一番見つけやすい駅前の広場。

 日は既に高く、晴れた日差しが緑地を照らしている。


 駅前ということでよく待ち合わせに使われるが、その中でも一番目立つ時計塔の前に彼女はいた。


 遠目ですぐに分かるほど、私服姿の八代さんは目を惹く。制服姿とは異なる魅力に、一段も周りを魅了していた。


 上は真紅の毛糸のセーター。下はチェック柄の茶色に薄いオレンジのラインが入ったロングスカート。肩から小さめの黒のバッグを下げている。


 落ち着いた秋服のコーデで普段以上に彼女が大人っぽい。色気が引き立ち、どこか蠱惑的な雰囲気さえ纏っている。


 あまりの目立ち様に、通り過ぎる人や同じように待ち合わせている人達が何人も八代さんに視線を送っていた。中には立ち止まってぼうっと見惚れている人までいた。


 そんな沢山の視線を集めながらも特に気にした様子はない。


 慣れているのか、あるいは気にしていない素振りをしているのか。

 多分どちらもだろう。俺と同じように。


 あまり見慣れない私服姿に、つい立ち止まって少し眺めてしまう。

 スマホをいじっていた八代さんはふと顔を上げてこちらを見た。


「あ、一条さん」


「よう。悪い。早めに来たつもりだったんだけど」


「いえ、私が早く来すぎただけですので気にしないでください。あまり相手を待たせるのが好きではないので、早めに来てしまいました」


 どうやら八代さんも俺と同じ考えだったらしい。


 どうしても相手を待たせてしまうのは気が引ける。

 八代さんは全く気にしていないようであっけらかんとしていたが、少しだけ申し訳なかった。


「それにしても、八代さん。ほんと凄い注目されてるな」


 学校で注目を集めている姿は見慣れたものだが、こうして外で周りの視線を集めている光景を見ると、一層彼女の容貌の優れ具合を実感する。

 ……どうしても、猫好きなポンコツな印象が強いけど。


「それは一条さんも同じだと思いますけど?」


 八代さんは周りをぐるりと見回す。

 

 確かに女子の何人かがこちらを見ているが、その数は普段の時より多い。八代さんの影響は大きいに違いない。


「それでも普段より注目を浴びてるよ。久しぶりに八代さんが美人なんだと実感した」


「ごめんなさい。褒めても好きになりませんよ? 私には心に決めたココアちゃんがいますので」


「事実を言っただけだ。ほんと勘違いは勘弁してくれ」


 狙ってないのにフラれるのはこれで何度目だろうか? これまでの回数を思い返して、ついため息が漏れ出る。

 

「さすがに一条さんが私のことを狙っていないのは分かってきました。でも、これまで大抵の男性が私に魅力を感じているようでしたので不思議で……」


 さも当然のように言われれば、そこに嫌味を感じる余裕はない。

 それに見た目について苦労するのは自分にも分かる。


 ずっと注目を浴びてきたのに、急に自分に興味を持たない人が現れれば、不思議に思うのも仕方ないだろう。


 顎に軽く人差し指を当てながら首を傾げていた八代さんは、はっと顔を上げた。

 嫌な予感しかない。


「ま、まさか男性ではない……!?」


「うん、何を言ってる?」


「ど、どうしましょう。一条さんの秘密を知ってしまったかもしれません」


「秘密ってなんだよ。俺は男だよ?」


 また妙な勘違いをし始めた。ほんと、アホなのかな?


 俺が男装している女子とか勘弁してほしい。

 ただでさえ八代さんを狙っているという勘違いを受けているのだ。これ以上妙な勘違いが始まるとか意味不明なことになる。


 先行きが不安になりながら、お礼のお出かけは始まった。




 

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