第13話 謎

「じゃあ、この後カラオケで集合ね!」


 ゆるふわボブの髪をふわふわさせながら、芽衣がクラスのみんなに知らせる。


 テスト明けのお出かけは、結局出来るだけ沢山の人と一緒に、ということでカラオケに決まった。

 土日だと都合がつきにくいというのもあり、今日の放課後行われる。


「はぁー、楽しみ! 蓮も来るでしょ?」


「ああ、もちろん」


 舞が楽しそうにこっちを見るので頷き返す。あまりこういう集まりは好きでないけど、断る理由もなく、流されるままにいつも行ってしまう。


「蓮ってめっちゃ歌上手いから期待してるね」


「そんな褒められるほどではないけどな」


 悠真や朱莉も帰りの準備を終えたようで集まってくる。いつものメンバーが顔を揃った。

 悠真が清々しそうな表情を見せ、腕を上げながら伸びをする。


「ほんとテスト終わったから心置きなく遊るわー」


「でもすぐに期末テストがやってくるけど」


「それは言うんじゃない」


 舞のツッコミに悠真は嫌気がしたように顔を顰めてため息を吐いた。

 

 中間テストが終わったとしても次は期末テストが待っている。まだ先であるし、その前に文化祭があるが、それでも憂鬱なことには変わりはない。

 そろそろ文化祭も本格的に動き始めることだし、期末テストのことは気にしないでおこう。


「今日は誰が来るの?」


 朱莉がぽわぽわした声で首を傾げる。

 俺も知らず、今回のイベントを管理している芽衣に視線を送ると、芽衣はスマホを取り出した。


「えっと、有馬くんとかサッカー部が今日は休みで来るかな。あとは吹部も定休日だから柳井さんのところのグループもみんな来るよ」


「へえ、そんなに来るのか」


「うん、せっかくだし、クラスの大体の人には声をかけたら結構集まっちゃった。ダメだった?」


「いや、驚いただけだよ」


 こてんと首を傾けた芽衣に肩をすくめて見せる。予想以上に多い。まあ、みんなこういう盛り上がる集まりが好きなのだろう。


 今、芽衣が名前を上げたたのは全員クラスでも俺たちと仲の良いグループだ。もちろんそこに八代さんの名前はない。


 これまでそのことに特に何も感じることはなかった。

 別に俺たちと特に関わりがあるわけでもないし、舞や悠真があまり好ましい感情を持っていないのなら、誘うことすらしていない可能性も高い。


 当然のことだとは思う。頭で理解もしている。それでも何か喉に小骨が引っかかるような違和感がなかった。


 いつメンみんな揃ったことなので、舞がリュックを背負った。


「じゃあ、そろそろ行こう」


「あ、悪い。本返さなきゃいけないから、遅れていくわ」


「えー? 待ってるよ?」


「いや、待たせるの悪いし、先行ってて」


「そう? 分かった」


 テスト前に勉強のために借りた参考書の期限が今日までだったことを忘れていた。


 少しだけ不満そうな舞を置いて、先に教室を出る。校舎端にある図書館へと向かった。


 図書館は、被服室や家庭科室、パソコン室など特別教室が集まっている場所のさらに一番奥にある。

 元々それほど利用者がいる場所ではないので人気は少ない。


 そんな最奥の図書館で本を返し終えて、今度こそ舞達が待っているカラオケへと向かう。


「はぁ……」


 正直、少し憂鬱だ。行けば楽しいのは分かっているのだが、向かうまではかなり面倒くさい。

 色々気にしないといけないことが多すぎる。特に舞周辺のことは。


 ここからのことを考えると足取りが重かった。


 人気の全くない廊下を歩いて下駄箱を目指す。そこでふと、教室のドアが開いているのに気付いた。


 教室のドアプレートを見ると、そこはパソコン室。

 一応学校の生徒向けに放課後は解放されていて、自由に使えることになっている。それでも今はスマホがあるので、あまり人がいることはないが。


 誰かいるのか気になって覗いてみると、パソコンと向かい合って座る見慣れた後ろ姿があった。


 艶やかなその特徴的な色素の薄い黒髪。誰をも惹きつけて止まない容貌。八代さんがそこにいた。


 ……何してんの?


 


 


 

 


 



 

 




 

 


 

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