第11話 テスト結果
八代さんからもらったプリントとノートは、想像以上に勉強の役に立った。
簡潔にまとめられた内容。その上で見やすいようになっていて、順を追ってやれば理解出来るようになっている。
さらには、テストで出やすい部分を重点的に抑えられているので、やればやるほど理解が深まった。
おかげで今回のテストは、全教科でこれまでで最高の点数を取ることが出来た。……まあ、これまでが酷すぎたのもあるけど。
とにかく無事赤点は取らずに中間テストを終えることが出来た。
「蓮ー? せっかくだし順位表見にいこうぜ」
「ん? まあ、いいけど」
テストが終わると、校内で成績上位者が50番まで名前と点数が張り出される。自分の学校は勉強への関心が強いので、多くの生徒が見に行く。
悠真に誘われ席を立つ。クラスメイトも何人ももう既に見に行っているようで、クラス内は少し人気が減っていた。
順位表は職員室横の掲示板に張り出される。普段は学校の行事のお知らせや不審者への注意喚起などの張り紙があるだけなので、誰も見る人はいない。
だが、今日はかなりの人が集まっていた。
もちろんみんなの視線の先にあるのは順位表。何人もの人たちが話して、ざわざわと騒がしい。
「蓮の名前はあるかなー?」
「あるわけないだろ」
「でも、今回のテスト、珍しく結構いい点数取ってたよな」
「……まあ、今回は割と勉強したからな」
「へー。なんかあった?」
「別に。気まぐれ」
八代さんの名前を出すほどバカではない。それがどう影響するのかは手に取るように分かる。
少なくとも、いい方向に向かうことはないだろう。
得意の愛想笑い浮かべ曖昧に誤魔化して、順位表の方に目を向けた。
まず一番最初に視界に入ってきたのは、第一位の人の名前。
数多の名前が書き連なる中で、一番上に堂々と君臨したのはいつもの彼女。八代凛だ。
今回もか。流石天才は違うな。これまでなら、そんな感想が浮かんで終わっていただろう。
だが、少しだけ垣間見た裏側の頑張る彼女の姿を思い出すと、天才なんて言葉一つで片付けるのは彼女に対する侮辱のように思えた。
「やっぱり今回も八代さんが一番かよ。つまんな」
毒の声が隣から届く。思わず悠真の方を振り向いた。
「は?」
「いやだって、ずっと一番が同じやつとかたまらなくない? それに舞に一番取って欲しいじゃん」
「……ああ、そういうこと」
自分の発言を特に気にした様子もないまま説明する悠真に、それ以上何かを言うのをやめた。
八代凛の名前の下には、同じく見慣れた名前、神楽坂舞の名前が書いてある。
入学して以来ずっと二番を取り続けている舞に、一番を取って欲しいと思うのは俺も同じだ。
だが、どうしても悠真の言い方が引っかかり、耳に残り続けた。
「あ、蓮くん。悠真くんも」
咲野芽衣がこちらに気付き、寄ってくる。どうやら舞達は先に来ていたようでもう見終わったみたいだ。
舞が隠しきれない不機嫌さを醸し出す。
「はー、最悪。また二番だった」
「えー、それでも十分凄いよ。私なんてここに載ってないし」
「そうそう。うちも同じ。載ってるだけでも十分凄いのに、学年で二番ってそうそう取れるもんじゃないから」
芽衣と朱莉が慰めるように舞の背中をぽんぽんと軽く叩く。それでも舞の表情は優れない。
何か声をかけようか。悩んでいると、そこに八代さんが通りかかった。
名前の如く凛とした雰囲気を纏い、周りの喧騒が一度止む。
圧倒的な存在感。周りの視線を一気に惹き集め、その身に全てを引き受けて歩いていく。
男女関係なく、綺麗な髪を揺らして歩く彼女を見守り続ける。
俺たちの横を通り抜け、掲示板を軽く眺めると、そのまま身を翻して帰っていった。
皆惚けていたことに気付いたのか、また話し声が廊下に響き始める。
「八代さんは相変わらずか。ほんと周りに興味がないんだな」
「ほんと、腹立つ」
悠真のどこか下がるような物言いに舞も苛立ちを滲ませる。八代さんの帰っていく後ろ姿を睨みつける舞の姿に、何か嫌な予感が背中を走った気がした。
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