世界樹を作った女

 ジョシュアはリヨの背に乗せてもらい、研究所へ。


「こっちだ!」


 幌自動車から降りて、イーデンが道案内をする。


「ミラ! うわ、なんだこれ」


 研究所へ行くと、ミラがツタによって「はりつけ」にされていた。


 屋根を突き破って立っているのは、太い幹の大木である。


 ミラは木のてっぺんあたりで、十字に吊るされていた。果実のようにも見える。


「どうなってるんですか!?」

「私にもわからん!」

「ミラ! しっかりして、ミラ!」


 呼びかけても、応答がない。


 イーデンが、他にも応援を呼びに行く。


「らちが明かないわ。直接助けに行く!」

「危険だよ!」

「うるさいわね!」


 ダダダッ、とリヨがツタをよじ登っていった。襲ってくるツタを、ボルダリングよろしく器用に避けつつ。


 ジョシュアかリヨの魔法で燃やせばなんとかなりそうだ。しかし、研究所に燃え移るばかりでなく、ミラにも火の手が迫ってしまう。先にミラを助け出さないと。


「リトルアーミー、リヨを援護するんだ!」


 持ってきたおもちゃの兵隊に指示を送って、ジョシュアもツタを攻撃して潰していく。


「ミラ、しっかりなさい!」

「……リヨ?」


 見知ったフェンリルの顔を見て、ミラは安心したようだ。


「ジョシュアは?」

「下よ」


 ミラがジョシュアを見下ろす。


「リヨを連れて逃げて、ジョシュア」

「何を言うんだ!? 今助けるから!」

「ムリ。ワタシは世界樹を人工的に開発してしまった。自生し、自分で栄養を取り、貪欲に育っていく」


 辺りに人がいれば、その知恵すら奪ってしまうそうだ。


「なんでそんなものを作っちゃったのよ?」

「ジョシュアに追いつきたくて」


 ミラの話を聞いても、ジョシュアは信じられなかった。自分がミラより優秀だとは、思えない。


「どうしてさ? ミラの方がすごいって! ボクはミラに認めてもらいたくて、フェンリルのリヨを倒すことだけを考えてた!」

「そうやって、ジョシュアはどんどんワタシを追い抜いていく。ワタシは、いつか忘れ去られてしまうんじゃないかって」


 そこまで聞いて、ジョシュアは自分がバカな考えをしていたと気づく。


 ミラは、ジョシュアに自分を見てほしかったのだ。


 なのに自分は、リヨだけしか視界に入っていなかった。


 リヨなんて、関係ないのに。


 それは、リヨが一番わかっていた。だから、あんなにも怒ったのである。


「ごめんよ、ミラ。ボクは子ども過ぎた。ミラと向き合うのが怖くて、リヨを目標にするって言い訳していた」

「ジョシュア」

「これは、ボクが助けないと!」


 リトルアーミーを四方に配置して、ジョシュアはツタの壁を這い上がった。

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