ホ●様のほうがいい!

 今日は、イーデンの結婚式だ。相手は、資産家である。政略結婚ながら、ちゃんと話し合って愛を誓いあったという。彼女は「家庭を持っても仕事を続ける」と宣言する。夫の方も、同意してくれたらしい。女性客からは拍手が湧く。


 イーデンが投げたブーケが、なぜかジョシュアの手にポトリと落ちる。周りからは、失笑が沸いた。


 それでも、イーデンからは励ましの眼差しをもらう。


「あ、あはは」


 バツが悪くなったジョシュアは、ブーケを隣に立っていた幼女に手渡す。


 女の子の親が気味悪がって、幼女からジョシュアを遠ざけた。


 パーティ席の隅で、ジョシュアはため息をつく。


「来てくれてありがとう。ジョシュア」

「いいんですよイーデンさん。ところでミラは?」


 さっきから、ミラが見当たらない。


「研究中だ。なんでも、意思を持った植物の開発をすすめているらしい。これによって、植物に調子を管理できるかもって張り切っていたぞ」


 ミラも、がんばっているんだ。


 自分も、負けていられない。


 リヨを倒さないと。



 帰宅すると、相変わらずリヨはジョシュアのベッドを占領していた。


 つかの間の自由を、味わっていればいい。今日の自分は、いつもと違うのだから。


「リヨ、今日こそ決着をつけるぞ」

「はあ?」


 今日あった出来事を、リヨに話す。


「……あんたさあ」

「おん?」

「バカじゃないの!? なんのためにミラが、あんたを職場まで呼んだと? ほんとバカ! 最低じゃん! どこまでバカなの!?」


 呆れてものも言えないという様子で、リヨはベッドに突っ伏した。ジョシュアから顔を背ける。


「なんだよ! ボクの気も知らないで!」


 ジョシュアからすれば、リヨを越えなければミラと話すことすらできないと思っていた。


「だから、お前を倒す!」

「あんたの事情なんて、知らないわっ! 女心もわからないやつは、とっとと死ねばいいのよ!」

「どうして、そこまでいわれないといけないんだ!?」

「教えなきゃわからないの!? あんたとミラとの関係って、その程度だったの!?」


 リヨは、そっぽを向いてしまう。


「……ホ●様の方がいい!」

「あんた、今なんつった?」


 よし、乗ってきた。


 教授と話し合って、どういう煽りならリヨが本気になるか検証してみたのだ。


「お前より、賢狼ホ●様の方がいいって言ったんだ!」


 案の定、リヨは「ホ●様」に過剰反応する。


「もういっぺん、いってみなさいよ!」


 リヨが、ジョシュアに飛びかかった。


「くらえ、【おもちゃの兵隊】!」


 あらかじめベッド脇に配置していた兵隊が、矢を放つ。


 矢の一本一本には、デバフを仕込んである。


「痛ったい! あんたいつの間にこんな!」

「ボクだって、強くなってるんだ!」

「でも、組み付いたらどうかしら?」


 リヨが、ジョシュアの両肩を掴んだまま窓をぶち破った。庭にまで飛び出す。


 母が大事にしていた花壇を、メチャクチャにしてしまった。


 後で弁償するとして、問題はリヨだ。


「このおお!」


 全身を魔力でコーティングして、防御の姿勢に入る。

 攻撃に転換してもいいが、どうせリヨのバカ魔力にはかなわない。攻撃用の魔力は、おもちゃの兵隊に託す。


 リヨは一対一なら、無敵の強さを誇る。

 だが、多数を相手にするところを見たことがない。


 ジョシュアとケンカばかりしているせいで、腕もなまっているはずだ。


「この程度の兵隊!」


 腕をふるって、リヨが兵隊たちのフィギュアを蹴散らす。


 だが、こちらにはまだ大量の兵士がいる。


「くう。ムダに集めていると思っていた大量のオモチャが、あたしに牙をむくなんて!」

「趣味と実益を兼ね備えた、って言ってよね!」


 ジョシュアが、魔法のステッキを二刀流に構える。どちらも、女児向け絵本に出てくる魔法少女の関連アイテムだ。三十路ちかい男性が持っていて何が悪い?


「くらえ!」


 ステッキをドラムのスティックのようにして、リヨに殴りかかる。


「なめんじゃないわよ!」


 リヨも、徒手空拳で応戦してきた。


 いける。あれだけ手が届かないと思っていたリヨが、自分のフィールドに持ち込んだだけでここまで対応できるとは。


 相手の集中力と戦力を、各方向へ散らせばよかったのか。


 リヨは、マルチタクスに適していない。


 反面、ジョシュアはマルチタクスこそ自分のホームグラウンドだったのだ。


「ジョシュア、大変だ!」


 だが、その優位も来客してきたイーデンの叫びによって掻き消える。


「どうし……ぐほお!」


 よそ見をした途端、リヨの裏拳が顔面にヒットした。


 盛大に、肥料まみれの土に顔が埋もれる。


「ペッペッ。何があったんです、イーデンさん?」

「ミラが、育てていた植物に捕まってしまったんだ!」

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