コンパの帰り

 ミラが「出ましょう」と、ジョシュアに提案してくる。


「いいの? スポンサーでしょ?」

「帰っていいことにした。スポンサー権限」


 ちょうどいい。ジョシュアも食事に飽きてきたところだった。


「ああ、そうだ。ラーメンでもどうかな? ごちそうするよ」

「行く」


 ミラには悪いが、別の場所で食べ直したかった。

 もっとガッツリ食べられるのかと思ったが、女性に合わせているのか少しのサイズしかない。本当に、採れた野菜の試食会だったのだろう。


 近くにあるラーメン屋へ、馬車を飛ばす。

 女性でも入りやすい、おしゃれな場所を選んだ。


「うーん、これこれ。背脂がギットギトなんだよ」


 ジョシュアはこってり系の豚骨しょうゆラーメンの、トッピング全部乗せをチョイスする。いつもの店では、これに加えて山盛りのにんにくを入れるのだが、女性連れなので遠慮した。


「興味深い」


 対するミラは、ロカボ系を食べている。味も、カルボナーラ的なパスタ風だ。


「シェア」

「いいの? 食べちゃってるけれど」


 お箸が入ってしまったので汚いと思うのだが、ミラは「シェアしたい」と聞かない。


「うん! じゃあ、どうぞ」


 別にジョシュアだって、独り占めしたいわけじゃない。小鉢に盛って、お互いに味を確かめ合う。


「おいしい!」


 ミラも、背脂のトリコになったようである。


 ジョシュアも、ロカボラーメンの可能性を感じた。これはこれで完成していると。なにより、ミラが箸をつけたものを食べることになって、ドキドキしている。


「ごちそうさま」


 外へ出ると、少し肌寒かった。


 ジャケットを脱ぎ、ジョシュアはミラの肩にかけてあげる。


「ありがと」


 ミラは、ジョシュアの手を握った。


「いつもこういう、おいしいものを食べているの?」

「普段は、もっと安いお店で食べるかな。近くのボロいラーメン屋さんがあるんだけど、ギョーザセットが安くてお腹が膨れるんだ。味は、こっちの方がいいけれど」


 いかにもジャンクを食べている、という気分がして、ついつい食べすぎてしまう。


「そっちも一緒に行きたい」

「ダメダメ! 床が油まみれだよ? 女性なんて呼べないよ」


 手をひらひらさせると、ミラはしょんぼりした。


「いつも一人で食べている?」

「ひとりじゃないね。リヨも一緒だよ」

「わたしも、一緒に食べたい」

「帰ったら聞いてみるね」

「約束」

「うん」


 女性と食事の約束なんて、初めてかも知れない。


 

「で、結局逃げ帰ってきたと」

「そうだよ」


 コンパが終わる二時間前に、ジョシュアはミラと共に家へと帰ったのである。


「別にいいだろ? ミラも退屈そうにしていたんだから」


 部屋着に着替えながら、ジョシュアも言い返す。


「いいわけないでしょ!? なんでヤッちまわないのよ! いい雰囲気だったのに!」

「できるわけないだろっ!? キミじゃあるまいし! そんなことをしたら嫌われる!」

「どうだか。相手は望んでいたんじゃないの!? サインとか出てたでしょ!?」


 ジョシュアは黙り込む。


 女性がそんなビッチな信号なんて送るだろうか。


 ましてや萬年童貞な自分に。


「バッ……カじゃないのアンタ。簡単なシグナルを見落とすとか。バッカみたい!」


 何も悪くないはずなのに、リヨが罵倒してきた。


「ほんとアンタ、マジそういうトコよ! なんで女のサインを察知できないの!? してあげないのかしら? もうバカ! マジでザコねザコジョシュアッ!」


 これ以上ない罵倒が飛んでくる。枕まで飛んできた。


「あああもう、ジャケットかけるとか気遣いはできるのに、女心のアンテナがぶち折れているのが最悪ね。マジ最悪ザコ。〇点……いや、マイナス一〇〇〇点ねっ!」


 はあ~っ、と、大げさにリヨがため息をつく。


「何をそんなに怒ってるんだ、リヨ?」

「教えない! 自分で考えなさい! まったくザコザコだわアンタ!」



 そのまま、リヨはふて寝してしまった。

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