ミラとの再会

「ああ、ジョシュア!」


 ミラが、ジョシュアを見つけて手を振ってくる。

 ジョシュアの方も、ミラの方へ駆け寄った。


「こんばんは。ジョシュア・ウォールバーグさん、彼女とお知り合いですか?」

「はい。幼馴染です」

「ご冗談でしょ?」


 黒服は、鼻で笑う。本当に失礼なやつだ。


「私はもう十分にオトナ。身分証もある」


 財布からミラが身分証を出す。


 カードを改めと、ニヤケていた黒服の顔が青ざめた。


「ししし失礼いたしました、ミラ・リコリス様! こちらへどうぞ!」


 道を譲った黒服の横を、ミラは憮然とした態度ですり抜ける。


「身分証を見ただけで、あいつ震え上がっていたね。ちょっと見せて」

「ええ。どうぞ」


 ジョシュアはミラから、身分証を見せてもらった。言葉を失う。


「あいつはクビ。このパーティのスポンサーも知らないなんて」


 その一言だけで、ミラがどれだけ力をもっているかわかった。


 身分証にも、『魔術師団 室長』と書いてあるではないか。


「親にお金を出してもらったんじゃない。自分の力で勝ち取った」

「すごいや。ボクなんかよりもずっと上を行っている」


 パーティ会場は、軽いコンパ状態になっていた。

 異文化交流会というのか、それぞれの魔法のジャンルでどれだけの功績をあげたのか、自慢大会になってしまっている。


 ずっと遠くにいるのは、ザカリーだ。


「で、ですなぁ。団長がピンチになったときにスババーっとですなぁ!」


 ザカリーが、魔物討伐のためにダンジョンを駆け回った話をしていた。酔うと必ず話す鉄板ネタになっている。


「実際は先走ってダンジョンのトラップにかかっちゃって、結果的にみんなの安全を確保したんだよ」


 全員助かったはいいが、彼の治療には半年を要した。リヨが協力してくれなかったら、あと十年は寝たきりだったとか。


「そのおかげで、リヨは魔術師団の特別指導員として招かれそうになった。けれど、本人は束縛されるのが嫌いじゃん。秒で断ったんだって」

「もったいないけれど、リヨらしい」


 ともかく、イーデンの助手としてザカリーはがんばっている。恋人をゲットできればいいが。


 得意なことがなにもないジョシュアは、会話に入っていけない。ミラがいなければ、孤立していただろう。


「資金提供しているって、言っていたね?」

「まあ、スポンサーと言っても、料理用の野菜を提供しただけ」


 ミラは『軽視されがちな土魔法が「作物の活性化」や「雑草処理」に役立つ』として論文を発表し、絶大な利益を得ているという。


 瑞々しいサラダが、ビュッフェに並ぶ。


「我が魔術師団が開発した野菜。一度、ドレッシングなしで食べてみて」

「ミラが作った野菜だね。いただきます」


 サラダを一口、いただいた。


 塩も何もかかっていないのに、キャベツが芯まで味が染み渡っている。トマトって、こんなにも甘かっただろうか?


 本当は、ジョシュアは野菜があまり好きではない。

 そんなジョシュアですら、トリコになりそうな味だ。

 これなら、自分でも食べられる。


「大事なのは土そのものより、土の中にいる虫やバクテリアの生活環境だった。彼らがいかに快適に生活できるかを追求した結果、病気にも強い野菜を作り出せた」

「すごいね。めちゃくちゃ出世してるじゃん」

「そうでもない。一度、陶器用の土を作っちゃったことがある」


 大笑いしながら、ミラが失敗談を語った。


「ところで、ジョシュアは何をしている?」


 来た。触れてほしくない話題が。


「あ、そうだ言い忘れてた!」


 ミラのあまりにも輝かしい功績に、大事なことを言っていなかった。


「そのドレス、すごく似合っているよ」


 女性は、まず外見を褒めろ、リヨから強く言われた言葉だ。


「ありがとう!」


 野菜を褒められたときより、ミラはすごく嬉しそうな顔になる。


 でも、自分の話題を振られたくないから、相手の服を褒めるなんて。


 あまり感心しないな、と自分でも思った。

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