コンパ

「三〇過ぎても彼女すらできないなんて」

「あのねえ、中身が変わってないからモテないのよ。チート並みに魔力が付いたからって彼女がホイホイ作れるなんて、ラノベの読みすぎよ」


 ぐうの音も出ない。


 思えばジョシュアは、これといった努力はしてこなかった。

 コンパとあれば、逃げるようにアイドルライブへと走る。

 飲み会も断り、一人で研究三昧。

 楽しみは、買ってきたミニチュアゴーレムドールを組み立てることだけ。家にあるだけで二五体、職場に一八体はいる。


「おまけにコンパにも顔を出さないなんて」

「誰から聞いたんだ?」


 ジョシュアがさっき聞いたばかりの話を、リヨが知っているなんて。


「みんな知ってるわ。アタシもイーデンから聞いたもの」

「だったら、答えは同じだ。ボクは参加しない」

「呆れた……ミラも来るかもしれないのに?」


 大げさに、リヨはため息をつく。


「ミラは、ボクよりいい人が見つかるよ」


 リヨは「あのねえ」と、ジョシュアに詰め寄った。 


「これまでのアンタを見てきて、決定的に足りないものが見つかったわ」

「なんだい?」



「決断力よ。あんたにはそれがまるでない」



「即決魔王のキミに言われたくないね。ボクがどれだけキミの尻拭いをしてきたってのさ」


 女と見たらば、子どもや老婆でさえ見境なく口説く。

 禁忌魔法に触れては、悪い魔神を呼び出しかけた。


「この間なんて、迷いの森でアラクネとチチクリ合っていたじゃないか!」

「いいじゃないの! アタシのライフスタイルにケチを付けないで!」


 声を張って、リヨがテーブルを叩く。


「合意のもとだからいいものを!」

「いいの!?」


 よくないだろう。危うく言いくるめられうところだった。


「とにかく、おとなしくしておいてよ。キミが目立つと、ボクが大変なんだから!」

「わかってるわよ。アタシだってもうお縄に付きたくないもの」


 立ち小便で逮捕されてから、留置所の匂いに耐えられないらしい。


「出なさいよ、コンパ。アンタには女性に対する免疫が必要だわ」

「考えておくよ」

「またそうやって、行かないつもりでしょ? 考えるだけで逃げてるだけじゃない」

「逃げてなんかいない」


 ジョシュアも反論する。


「アンタは一度、安全領域コンフォートゾーンからである必要があるわ。居心地のいい場所から抜け出さないと、いつまでたっても成長しないのよ!」

「フラフラほっつき歩いているキミに言われたくないね」 



 

 帰宅後、ジョシュアはクローゼットからできるかぎりいい感じの服装を用意した。


 あれだけ言われて行かなかったとなれば、きっとリヨは自分を「負け犬」だとか「結局ザコ」と罵ってくるだろう。


 チャンスをフイにして現状維持をするより、負けて後悔するほうがいい。

 これまでのジョシュアの人生は、リヨに負け続けだった。

 悔しいが、リヨの言うことは正しい。

 負けるのには、慣れている。


「やってやろうじゃないか。見てろ」


 意を決して、ジョシュアは蝶ネクタイを直す。


 パーティ会場の入り口まで来た。


 心臓がバクバクしている。

 料理を食べに来たんだ、と自分に言い聞かせているのに、緊張していた。


 落ち着け。彼女なんてできるわけがない。なにを期待しているのか。


 もしかすると、ミラと鉢合わせするかもしれないと思っているのかもしれない。


 まさか。ミラがこんなところに来るわけがない。


 入り口で、小さな女の子が従業員と揉めていた。


「だから、私はちゃんと招待状をもらっている」


 黒いドレスを着た少女が、黒服と口論になっている。

 小さなダークエルフだ。

 金色の髪を、ポニーテールにまとめている。

 背中から腰までぱっくり開いたドレスなのに、幼い背丈のせいで色気を感じない。


「お酒を出すところだから、小さい子は保護者同伴でないと。さあ帰った帰った」


 黒服も、頑として道を開けようとしない。



「……ミラ!」



 そこには、ミラが立っていた。


 初めて会ったときと、ほとんど同じ姿で。

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