退屈な修行パートにテコ入れを

 ミラが、トレーニングに加わりたいと言ってくる。

 やる気がある相手に、断る理由なんてない。


「ホント? ボクはいいよ!」


 二人きりのトレーニングに、シティエルフのミラが加わった。

 どこに入っていたのか、ミラは空手着に着替えている。


「リヨはいいの? 勝手に決めちゃったけれど」

「別に構わないわよ。修行パートは、どうしてもつまらなくなるわ。キレイどころの参戦は、テコ入れにちょうどいいわ」


 ただし、とリヨは念を押す。


「言っておくけれど、アタシのトレーニングは忖度そんたくなしよ。子どもといえども容赦ようしゃしないから」

「はい。じゃなかった。押忍」


 シティエルフ志望なのに、ミラは根性がえらく泥臭い。


 その後、ジョシュアとミラの二人がかりで、リヨに組み付く。人が見たら、人形の狼とじゃれ合っているように見えるだろう。しかし、二人は真剣だった。


「いいわよミラ。魔力を行き渡らせる技術は完璧ね。どっかのデブは、またゼエゼエ言い出したわ。ささファイト!」


 リヨも、二人の気合に触発されて、いつも以上にハッスルしているように見える。


 特にミラは筋がよく、ジョシュアの作ったスキを見事に活かしていた。勝利までには至らないが、並のファイターなら楽に倒せるかもしれない。


「二人がかりで、それなりってところかしら」

「でも、ボクが足を引っ張ってるね」

「何を言っているの? アンタがポンコツだからこっちが油断するのよ。そこを、ミラが突くのよ。ちょうどいいコンビネーションだわ」

「でも、カッコ悪いよ」


 こちらとしては、華麗に勝ちたいと思ってしまう。


「あのね、ジョシュア。カワイイ女子の前でイキりたい気持ちはわかるわ。でも、これだけは覚えておきなさい。男のかっこいいところだけを追い求める女に、ロクなやつはいないわ」


 ジョシュアの気持ちを察してか、リヨは強い言葉で諭してくる。いつもの調子でありつつ、言葉に愛情が詰まっていた。


「ミラは、そういう女じゃないでしょ」


 話題を振られたミラも、強くうなずく。


「本当に大切なのは、大切な人を守る力があるかということよ。あなたは家族を守ったのよ。もっと自分に誇りを持ちなさい」

「わかったよ」


 ふてくされつつも、ジョシュアも折れる。


 幌屋根のクラクションが、軽く鳴った。

 音に反応して、ミラが振り返る。


「今日はどうもありがとう、親が呼んでいるから行くね」

「あ、うん」


 ジョシュアが軽く手を挙げた。


「ありがとうリヨ」

「どういたしまして」

「また稽古をつけてね」


 手を振って、ミラは親の元へ駆けていく。途中、ミラが振り返る。


「あ、えっと。かっこよかった。がんばって」

「う、うん。ありがと」


 ミラたち一家が、幌の付いた車に乗っていく。




 トレーニングを終えたジョシュアは、リヨとともにお風呂で汗を流す。


「いい子ね。ああいう子をゲットなさい」


 ジョシュアの背中を流しながら、リヨがとんでもない発言をした。


「なななな何を言っているんだよ!?」

「隠さなくてもいいわよ。自分からは好きだと言えないくせに、好きだと言われたいんでしょ? 子どもみたいに。死ぬほど。そうでしょ?」

「ボクは違うよ!」

「やっぱりああいう娘は、マニュアル通りに見つめてそんでもってバッコンバッコンよ!」

「お前! 頭がどぉかなっちゃってんだろ!?」

「とか言って。ココは正直に反応しているわよ」

「このぉ、やめろって!」


 リヨとお湯の掛け合いをしていると、またも父がライフル片手に乱入してきた。ジョシュアがまたケツを狙われたと思ったからだ。

 

 夕飯を両親と食べながら、ジョシュアは父に質問をする。


「父さん、あの方たちとはお知り合いですか?」

「ああ。近くの魔法学校に入学するそうだ。お前と同じ学校だぞ」

「やった! がんばります!」

「いい子だ。では、手続きしておこう。ミラさんと仲良くな」


 二月生まれのジョシュアはいわゆる早生まれで、他の生徒より成長が乏しい。


 しかし、今はリヨがいる。

 今日以上の厳しい鍛錬を積んで、他のクラスメイトとの差を縮めようと思った。

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