メスガキなトレーナー
料理が目の前に置かれるなり、さっそくリヨががっつく。
「モグモグッ! うん悪くないわねモグモグ! 焼き加減もちょうどよくて、いいところの部位を使っているわ。これでワインがあれば、完璧なんだけれど」
ステーキの味に、リヨは満足げだ。
朝はいつも軽めで済ませるジョシュアも、リヨに付き合う形でステーキを頬張る。朝から肉食も、そんなに悪くないかも。
「キミ、ウチの事情にやたら詳しいけれど、知り合いだったっけ?」
「今は食べることに集中させて! あと、お酒よこしなさいよ!」
プンスカと怒りながら、フェンリルのリヨはステーキをガツガツと平らげる。
「お酒お酒ってうるさい! それより話の続きを聞かせてよ」
糖尿で若くして死ぬって、どんな人生だったのだろう?
「いいわ。アタシは前世で、わがままな女だったわ。そんな自分を、誇らしく思っていた」
聞けば生前の令嬢は、甘いもの・脂っこいもの・ワインを好んだ。野菜を一切取らない生活を送っていたとか。
そのため、一〇代ですでに糖尿となり、それでも堕落した生活をやめなかった。
結局、二〇をすぎることなく死んだという。
死因が単なる、不摂生による贅沢病とは。なんとも、情けない理由だった。
「で、キミのことを不憫に思った神様的存在が、キミを狼の召喚獣に転生させたと?」
その手の話は、この世界では掃いて捨てるほどあるが。
「いいえ。『もっと現世で地獄を見るがいい』って、人間界に突き落とされたわ」
神様でさえ舌を巻く、素行の悪さだったらしい。
「で、どうするの? ダミアン兄さんのお嫁さんに復讐する?」
「とんでもない。妹とは仲がよかったわ」
リヨは首を振った。
妹とリヨは、一緒にお菓子を作って分け合う仲だったという。
嫁に行くことが決まり、妹の方は甘いものは控えていた。
が、自身は嫁ぎ先が決まっても態度を改めなかったそうだ。
妹の分も独り占めできる、という意地汚さ。
それが、死亡事故を生んだわけだが……。
「妹さんの顔を見に行く? 久しく会っていないんでしょ?」
父はわからないが、義理の姉なら事情を説明したら納得してくれるかも。
淡い期待を告げてみたが、リヨは首を振った。
「やめておくわ。姉がこんな姿になったと聞けば、ショックを受けるだろうし」
いきなり「あたしが姉よ」なんて言っても信じないだろうし、とのこと。
飼い主であるジョシュアが魔力で言わせているだけ、と思われてしまう。
「こんなバケモノ相手に、優しいのね」
うっとりとした眼差しを、リヨはジョシュアに向けてくる。
「友達だからさ」
「随分と、こだわるのね?」
「ボクってさ、両親が歳をとってから生まれたんだよね」
家族はよくしてくれていたが、周りからはバカにされ続けてきた。兄二人と比較されては、からかわれている。
ジョシュア自身も、同世代の子どもたちとどう接していいかわからない。そのため、家で魔導書ばかり読む毎日だ。
特に、召喚術に興味を持つ。
対人を想定した攻撃や治癒には関心が向かず、とはいえ友達は欲しかったから。
ケモノと仲良くなれればモフモフし放題だろうという、邪な心がなかったわけでもない。
結果的に、フェンリルを喚び出すほどの実力はついたのだが。
「聞くだけでも、情けないよね。ボクは役立たずで、お人好しだ。キミ満足させることもできない」
「そんなことを、気にするわけ?」
水でノドを洗い流しながら、リヨは聞いてきた。
「気にするさ。召喚しっぱなしで野放しだからね。ボクがもっと強かったら、キミのお願いを聞いてあげられるのに。欲しい物だって、用意できるはずだ」
「そこで『アタシを従わせられるのに』って言わないところが、アンタらしいわ」
「主従の関係はイヤだ。ボクは、友達が欲しい。気兼ねなく話せて、ケンカできて、バカができるような!」
リヨは残ったステーキを平らげてから、フンと鼻を鳴らす。
「ふうん。カワイイこと。気に入ったわ。この最強フェンリル様が、アンタを訓練してあげる」
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