第11話・メイドの休日(発動編)

 「で、何してたんすかあんたら」

 「あ、あはは…」

 「すぃませぇん…」


 雇用主とその友人をアンタ呼ばわりはどーなの、と部外者としては思わないでもないが、それを口にしたら「黙れ全ての原因」とでも言われそうだったので、仁麻は黙ってその光景を眺めてた。

 ただまあ、駅前の人通りの多いところで、ベンチに女子高生二人座らせてその前に金髪に染めた背の高いヤンキー風ファッションの女性が仁王立ちしてるところなど、どー見てもカツアゲしてるところにしか見えないのでさっさと場所を変えた方が良さそうだ。


 「……マジすか」


 という旨を伝えたらえらくショックを受けてい た麻季を引きずりながら、一同は場所を移動した。




 「ええっとお、まずは名乗らせてもらうわね。麻季ちゃんの従姉妹の旦椋仁麻あさくら にお、二十四歳でぇす」


 駅前のルミネのスタバの店内に、アニメ声の自己紹介が響いた。それはもう、居並ぶ他の客の注目をも間違い無く集めたのだが、それは声質が耳をひいたのか、それとも今どき個人情報を大声で開示する危なっかしさに眉をひそめさせたのか、さもなくば身長百四十センチの二十四歳、という存在に目を疑わさせたのか。


 「「にじゅう…よん…?」さい?」

 「だよん☆」


 四人がけのテーブル席で、ひとり頭を抱えてる麻季をよそに、ご満悦な最年長者と信じられないものを見ているという風の、女子高生二人だった。


 「…ままま、お二人さんおちついていこ、おちついて。麻季ちゃんはねえ、二年前に東京に来て右も左もわからないかわいそーな時期にぃ、わたしがお世話してあげてたのぉ。純粋でひとを疑うことをしらない麻季ちゃんがあ、まがりなりにもひとりで生活出来るようになったのは、わたしのおかげ…ってわけ♪」

 「はあ…」


 立ち上がって(その状態でも椅子に腰掛けた他三人と、目線の高さはそう違いはなかったりする)大演説をぶつ従姉妹の長広舌を、麻季はなんだかいろんなものを呑み込みつつ、ついでにしかめっ面を崩さず終わるのを待ち、それが済んだら、初めてお酒を呑んだみたいな顔をしていた二人に。


 「ちげーますからね」


 と、メンチを切るみたいな顔で告げたのだった。


 「…いやその。麻季、何がちがうって?」

 「おじょーさまの考えてるよーなことは全く!…なかった、という意味です」

 「わたしの考えてること…?」


 お嬢さまとそのご学友は、「何のこと?」「あーしが分かるわけないっしょ」とフキダシが見えそうな視線を、交わしてた。


 「麻季ちゃん考えすぎよぉ」


 一方仁麻の方は、「よいしょ」というかけ声とともに身長に合わない椅子に腰掛け、胸の辺りの高さにあるテーブルから、エスプレッソをダブルで追加したコーヒーのカップをあおり、ブラックの呑めない麻季に精神的ダメージを与えていたりする。


 「…まあとにかく。おじょーさまが何をしてたのかはともかく。後で邪推されるのも愉快じゃねーので、不肖の従姉妹を紹介しておきます」


 そうして麻季はこの場でただひとり、場の全員の顔と名前が一致している者の義務として、双方に互いの紹介を仕方なく行ったのだった。


 「へえ…公務員しながら大学院て、勉強熱心なんですね」

 「そうよぉ。なのに麻季ちゃんてばヒマ人が暇に飽かせてお金の無駄遣いしている、みたいに言うんだもの」

 「仕事にぜんっぜん関係ねー美大の院なんぞに行ってる時点でヒマ人は確定でしょうが。税金から給料もらってる自覚を少しは持ったらどーなんすか」


 苦々しそうに言う麻季なのだが、税金云々はともかく美大の院試を通るだけでも相当なもの、ということを知識としては知ってた篠は、素直に感心してはいた。

 エキセントリックな言動も、変人が多いらしい、という美大生に対する印象(偏見である)と異なるところがないため、こうも麻季に頭痛をもたらす物言いも納得するところだ。

 納得いかない点があるとすれば仁麻の年齢と身長のバランスのことに、なくもない。もっとも、身体的特徴をあげつらったりしないくらいの分別はつくので、不躾にその点に触れたりはしないが。

 万千もそこは篠の友人らしく、同じような振る舞いでいたから空気が悪くなるようなこともなく、スタバから駅近くの老舗の中華料理屋に場所を移し、一同お昼を仁麻の奢りで済ませて気分良く散会する…ところまでは終わったのだった。

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