「するわけねぇだろ」 


「……へえ、意外。……あの『紫津木藍』がね」



揶揄う言い方をしてごまかしたが、まだキスすらしていなかった事に愕然とした。


いつも違う女を連れていた紫津木が?!


キスどころかセックスさえ、なんの躊躇もなくヤってた紫津木が?!



簡単に手を出せないほど、本気ってことか?


自分本位ではなく、相手の気持ちも思いやってると?



「なに迷ってんだ?好きなんだろ?告白は?」



無言で首を横に振る。



昨日、自覚したんだ。無理もないけど、



「どうして?…何か理由があるのか? 言ってみろ。」 


「オレだって、あいつのこと…すげぇ好きだよ。キスもしたいし…もっと…」


「抱きたい?」


「…けど…それって結局、安堂達がやってることと同じなんだよ」

 

「は?…それは違うだろ?」


「こっちは違うと思ってても、される側からしてみれば、同じだよ」



違う……それは違うぞ、紫津木。


マサキと、自分を一緒にするな。


もし、お前が抱くとしたら、優しく扱うんじゃないのか?

華奢な愛ちゃんの身体をどこまでも愛しそうに…


マサキのように、あんな…乱暴…しないだろ?


愛ちゃんだって、ここまで打ち明けたんだ。

きっと、お前のこと、大好きな筈だ。

 

大好きな人には、触れて欲しいもんだろ?



「オレに心を許して部屋に入れてくれたのに、んな事してみろ。また前のように部屋に閉じこもって、心も閉ざしちまうかもしれねぇ。

ずっと傍に居れるなら…オレの気持ちなんて、どうでもいい」



どうでもいい…か。

  


紫津木も愛ちゃんも、似た者同士だな。




なんだ…



お前ら、もう……愛し合ってんじゃん。



告白してないだけで。




なんだ…でもないか。


 

本当は、判ってた。こうなる事。



オレが、紫津木に告白した、あの日_


実は、もっと話がしたくなって後を追ったんだ。

明日になる前にもう一度話がしたかった。


外まで追いかけた時、


オレの目の前に飛び込んできたのは、

仲むつまじそうに話をしている、紫津木と愛ちゃんの姿だった。


紫津木が、少し屈んで愛ちゃんの顔を覗き込んでた。

恥ずかしそうに俯いてた愛ちゃん。



そんな姿見たら、お似合いだって思ったよ。

オレには敵わない_てね。



それでも、本人の口から『キスしたい』とか『抱きたい』とかのフレーズが出てくると、やっぱり凹むもんだな。



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