「し~づきぃ。初デートだね」



もちろんわざとだ。

何を苛立ってるのか知らないが、現役モデルが近づくなオーラ出してたらダメだろ。

しかも、自分の学校の近くで。


オレは苛立ちを鎮めようと、穏やかな雰囲気で紫津木が座るテーブルに近づいた…そのとたん_、


グイッと襟元を掴まれ、そのまま向かえの席の背もたれに押し付けられた…!



……ぇ?



「話を済ませて、早く行きたい所があるんで、協力して下さいよ、葵さん」


  

ギラギラした瞳でオレを睨んでいる。


初めて…じゃないか?


オレにこんな感情をぶつけてきたの。



「おう。…遅くなって悪かったね」



ヤバい!身体中がゾクゾクする…!



紫津木は、人当たりは良いが自分のテリトリーには入れない。モデルなんて特にだ。ただ唯一親しくしているモデルがいる。

並木恭介という同じ高2で、彼もまた母子家庭で育っている。

年齢を偽ってキャバクラの黒服で働いていた所をスカウトした。

一見チャラそうだが、芯はしっかりしている。

モデルなんて、モテるためにやっているようなヤツらが多い中で、アイツらは違う。そんなところがお互い、心地よいのだろう。


その2人は、スタジオで一緒になると、盛り上がって大きな声で笑ったり、耳打ちしたかと思うとじゃれ合ったり、楽しそうにしている。



そう。


楽しそうにしてるんだ。



そこにオレが入っていくと、


「葵さん、なんスか?」とか、急にかしこまって中には入れてくれない。   



楽しそうな紫津木をいつも外から眺めるだけ。


紫津木は、礼儀正しいから目上の人に対して、タメ口は使わない。

  

上司のオレにグイグイくるヤツじゃない。


だから、諦めた。



だけど今、オレの前で感情がコントロール不能になってる。


嬉しい!マネージャーとしては、失格の発言かもしれないけど、もっとオレにぶつかってきて欲しい。



「今…如月がどんな事になってるか…葵さん、知ってますか?」


「きさ…らぎ?…て、愛ちゃんのこと…か?」


「ああ」



背中に電流が走った。


そして何度も繰り返す紫津木の言葉。



『ああ』



紫津木がオレにタメ口で話してる!


高鳴る胸を抑え、愛ちゃんに対する気持ちを確認しておこうと口を開いた。



ところが、女の子が来て阻まれてしまった。


まあ、ちょうどいいか。


まだカリカリしてるようだし、何か飲んで気持ちを落ち着かせた方がいい。


紫津木を見ると、オレの視線に気づいて首を横に振った。


何も頼まない気か?


店にも悪いし、それに何より、さっきの紫津木のオレに対する態度で、店内がざわついて、視線も気になる。


ここはひとつ、


「カフェオレ2つ」



紫津木は、「はあ?」て、顔してるな。面白ぇ。


カルシウムでも取って、少し落ち着け。



注文を取ってくれたその女の子に、サインを頼まれたので、ついでに周りの席に客を案内しないようにお願いした。

紫津木の様子から、もう一波乱ありそうな気がしたからだ。


女の子がいなくなってから、愛ちゃんには、あの日以来会ってない旨を伝えた。


大学でもなかなか会えなかったから、マンションまで行ったが、会ってはくれなかった。

あんな目にあわせたオレの顔なんて見たくないからだ。そう思って、それ以上は突っ込まなかった。



「じゃ、なんで今になって社長はオレを如月に? なんか聞いてる?」



親父からは、話し相手兼ボディーガードとして、愛ちゃんに紹介したいと相談というか、決定事項を聞かされた。

その事は、2人には伏せておくようにという、親父からの命令だ。



「マサキ…安堂マサキが、愛ちゃんにストーカー行為を働いてるという情報が入ってきた。だから…」


「ストーカーどころじゃねぇよ」


「どういう事だ?」



紫津木の口から出てきた言葉は、信じ難い事実だった。





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