10
「はい。何でしょう?」
「愛には話訊いたんだよな?」
「はい。昨日」
「話訊いたのは、アンタら?」
「はい。僕と隣の後藤が伺いました」
「愛は、ひとりで?」
「いえ。須藤警部と一緒でした」
「そっか…須藤さんが」
少し、ホッとしたような表情。
「何か?」
「いや…いい」
「…それでは、質問させて下さいね」
それから、愛さんの供述と照合する作業が始まった。
紫津木藍は、それまでの態度とは一変して、スラスラとこちらの質問に答えてくれた。
テンポ良く進んでいき、愛さんの供述を
纏めた調書の最後のページをめくった時、その言葉が止まった。
「?…どうかされました?」
「…っんだよ、それ…」
え?
紫津木藍が見ている『それ』を目で追った。
ぁ…これは…マズい…か?
『それ』は、如月さんの例の写真。
最終ページにクリップで留めていた。
「それ、ちょっといいか?」
と、手を差し出してきた。
いや…それは、いくら何でもマズいんじゃ…?
そう思って、隣の後藤さんを見た。
すると後藤さんは、無言で写真を外すと、紫津木藍に向けて机の上を滑らせた。
は?
「…後藤さん?」
「……こちらのミスで、うっかり落としてしまい、それを紫津木さんに拾われてしまった…という事で」
さも当然のように、写真を受け取る紫津木藍。
何か僕だけ、置いてけぼり感がハンパないんですけど。
写真は、背中側と前側、両側面と計4枚ある。
まるでカードゲームで、カードの中身を確認するかのように、顔の前に写真を掲げて静かに見ている。表情が解らない。
が…、被疑者に回し蹴りしたくらいだ。暴れ出すかも。
「なあ、オレ、こんな話聞いてねぇんだけど?」
きた!
さっきより声のトーンが低くなってる!
「すみません」
て、何で僕謝ってんの?
「あの糞じじぃ。エロいだけじゃなくて変態だったのかよ」
…ぇ……え?
ぁ…
「そ、それは、糞…被疑者ではなくて、本人がやったんですよ」
「本人…て、愛が?自分で?」
意外な答えだったのか、目を丸くして固まっている。
「はい。触られた場所が気持ち悪かったようで…見ての通り、全身擦ったようです」
「何で…?何で擦ったら、こんな…」
えっ…?
「…風呂場にあったデッキブラシだそうです」
ぁ…
「はあ?!……バ…バカじゃねぇの…?」
やっぱり…そうだよね…?
「お前の…肌は…そんなに強く…ねぇだ…ろ?」
目に涙が溜まってる…
片手で口を覆いながら、ギリギリまで我慢してたのか、今、ポロポロと涙が零れている。
「…血だらけじゃねぇかよ…」
泣くんだ…。糞生意気なだけかと思ってたけど…
「……こんなになるまで…クソッ」
意外と、情が深いんだ。
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