11
「前に進もうとしてたのに…こんな…クソッ」
頭を抱えながら、両肘をついてしまったので、表情までは読みとれないが、涙声には違いなかった。
「笑顔だったのに…」
クソッ……と、また小さな声で。
そして、
自分の頬を両手で、バシッと叩いた。
「わりぃ。中断させた」
と、現れた目には、まだ涙が溜まっているけど、その表情は、もう前を向いているような…
「大丈夫ですか?」
「ああ。おかげで、腹決めた。サンキュな」
「い…いえ」
何の事だか解らないけど、きっと如月さんにとっては、良いことなんだろう。
「続けてくれ」
「……はい。それでは…」
今、一瞬だけど微笑んでくれたな。
多分それは、僕達にではなく、如月さんに向けてのものだ。
*****
「これで以上になります。最後になりますが、何かお話ししておきたい事がございましたら、伺います」
「…ああ、それなら…」
と、前髪をかきあげて現れた瞳は、照れたように窓の外に向けられていた。
「何かありましたか?」
「オレと愛の事なんだけど…」
……あ!
「教えてくれるんですか?!」
食いついたとたん、スパーンと、小気味よい音をたてて、後藤さんに叩かれてしまった。
「お前は、まだそんな事いってんのか!」
「だって…」
チラッと紫津木藍を見ると、笑いを堪えてはいるが、完全に肩が揺れてる。
少々ムッとする僕。
と同時に、モデルの笑顔に見惚れてる自分もいて…
そんな深い意味は無いけど。
いや、誰だって見ちゃうでしょ。
初めて笑ってくれたんだから。
「期待させちまって悪ィな」
まだ笑ってる。そんなに面白かった?僕達。
「……オレ達の事は、複雑な問題が絡んでて、ここで話す訳にいかないんだ。 話さなきゃ、何かの罪に問われるっていうなら別だけど?」
「…いえ…。そういう訳では…」
……ですよね。
そんな僕に、「さっきは、悪かったな」と、優しい眼差し。
「…まあ、近いうちに…」
「……え?」
「後藤さんと鈴木さんにだけは、判るように伝える。だけど内緒だからな」
と、人差し指を唇にあてた。
うっ……何から何まで絵になる。
でも名前で呼んでくれた。
この人、見た目と違って、タラしじゃないんだろうけど、知らずにタラされてしまう。(日本語あってる…か?)
*****
年も明けて、お正月気分が薄れてきた頃、僕と後藤さん宛てに大きな封筒が送られてきた。送り主は、紫津木藍。
開けてみると、一冊の雑誌。
VIOLETという雑誌で、中に付箋がはさんであった。
付箋のページを開いてみると、『恋人と過ごす休日の朝』という記事で、服というよりモデルがメインの特集のようだった。
これの何を見せたいのかな。
ぁ……これ、紫津木藍だ。全然雰囲気違うから解らなかった。
ていうか、こんな柔らかい表情が出来るんだな。流石プロ。
恋人役のモデルさんも、紫津木藍のこと好きになっちゃうんじゃないの?
「…やはり、如月さん相手だと違うな」
途中、覗き込んできた後藤さんが、感心したように呟いた。
は?
今、何て言った?
「何だお前、気づいてたんじゃないのか? はっきり、顔は写してないが、どう見ても如月さんだろ?」
え?
嘘……
改めて雑誌に目を落とす。
確かに……斜め後ろから見た頬。
赤ちゃんみたいにぷくぷくしてる…。
如月さん…!
他のモデルのページを見てみると、相手は、ちゃんと顔が出ていてモデルさんが務めている。
ていう事は、そういう事?
もう一度紫津木藍のページを見てみた。
うん。良い顔してる。
如月さんの顔は写ってないけど、紫津木藍の顔を見れば解る。
人の表情は鏡だからね。
どんな関係なのかわかったよ。
ありがと。
気になります end
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