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「前に進もうとしてたのに…こんな…クソッ」

 


頭を抱えながら、両肘をついてしまったので、表情までは読みとれないが、涙声には違いなかった。



「笑顔だったのに…」


クソッ……と、また小さな声で。



そして、


自分の頬を両手で、バシッと叩いた。



「わりぃ。中断させた」


と、現れた目には、まだ涙が溜まっているけど、その表情は、もう前を向いているような…



「大丈夫ですか?」


「ああ。おかげで、腹決めた。サンキュな」


「い…いえ」



何の事だか解らないけど、きっと如月さんにとっては、良いことなんだろう。



「続けてくれ」

 

「……はい。それでは…」



今、一瞬だけど微笑んでくれたな。


多分それは、僕達にではなく、如月さんに向けてのものだ。




*****




「これで以上になります。最後になりますが、何かお話ししておきたい事がございましたら、伺います」


「…ああ、それなら…」


と、前髪をかきあげて現れた瞳は、照れたように窓の外に向けられていた。



「何かありましたか?」


「オレと愛の事なんだけど…」



……あ!



「教えてくれるんですか?!」



食いついたとたん、スパーンと、小気味よい音をたてて、後藤さんに叩かれてしまった。



「お前は、まだそんな事いってんのか!」


「だって…」



チラッと紫津木藍を見ると、笑いを堪えてはいるが、完全に肩が揺れてる。


少々ムッとする僕。


と同時に、モデルの笑顔に見惚れてる自分もいて…   


そんな深い意味は無いけど。


いや、誰だって見ちゃうでしょ。



初めて笑ってくれたんだから。



「期待させちまって悪ィな」



まだ笑ってる。そんなに面白かった?僕達。



「……オレ達の事は、複雑な問題が絡んでて、ここで話す訳にいかないんだ。 話さなきゃ、何かの罪に問われるっていうなら別だけど?」


「…いえ…。そういう訳では…」


……ですよね。


そんな僕に、「さっきは、悪かったな」と、優しい眼差し。



「…まあ、近いうちに…」


「……え?」


「後藤さんと鈴木さんにだけは、判るように伝える。だけど内緒だからな」


と、人差し指を唇にあてた。


うっ……何から何まで絵になる。


でも名前で呼んでくれた。


この人、見た目と違って、タラしじゃないんだろうけど、知らずにタラされてしまう。(日本語あってる…か?)




*****

        



  


年も明けて、お正月気分が薄れてきた頃、僕と後藤さん宛てに大きな封筒が送られてきた。送り主は、紫津木藍。


開けてみると、一冊の雑誌。


VIOLETという雑誌で、中に付箋がはさんであった。


付箋のページを開いてみると、『恋人と過ごす休日の朝』という記事で、服というよりモデルがメインの特集のようだった。

これの何を見せたいのかな。


ぁ……これ、紫津木藍だ。全然雰囲気違うから解らなかった。


ていうか、こんな柔らかい表情が出来るんだな。流石プロ。

恋人役のモデルさんも、紫津木藍のこと好きになっちゃうんじゃないの?



「…やはり、如月さん相手だと違うな」



途中、覗き込んできた後藤さんが、感心したように呟いた。



は?



今、何て言った?



「何だお前、気づいてたんじゃないのか? はっきり、顔は写してないが、どう見ても如月さんだろ?」



え?


嘘……


改めて雑誌に目を落とす。



確かに……斜め後ろから見た頬。

赤ちゃんみたいにぷくぷくしてる…。



如月さん…!



他のモデルのページを見てみると、相手は、ちゃんと顔が出ていてモデルさんが務めている。


ていう事は、そういう事?


もう一度紫津木藍のページを見てみた。


うん。良い顔してる。


如月さんの顔は写ってないけど、紫津木藍の顔を見れば解る。


人の表情は鏡だからね。



どんな関係なのかわかったよ。




ありがと。









気になります end



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