僕は、ますます紫津木藍という人物に、興味を持った。


如月さんに、ここまでさせる人物。


どんな男なんだろう。


すごく優しいとか?優しいだけじゃなくて、男らしいとか?


でもこれじゃ、ただのモテる男だよな?


2人の関係性が判れば…。



「愛ちゃん?何か心配?」


警部が、急に黙ってしまった彼を心配して声をかけた。


「…うん…あの…」


如月さんは、意を決したように後藤さんを見た。


「何か?」


「…藍は…オレをずっと支えてくれています。それだけは、知っておいて下さい」


「大丈夫ですよ。伺った内容の裏づけをとるだけですから」


「…忙しい人だから、オレの事で煩わせたくないし…嫌な思いさせたくない」



もしかして…今のやり取りの中で、嫌な思いをしたのだろうか?だから、紫津木藍には、そんな思いはして欲しくないと?


そんな風に思えるという事は、やはりそれだけ大事な人…て、ことか?



「愛ちゃん? …なんだ…その…紫津木君には、もっと甘えてもいいんじゃないの? オレが彼の立場だったら、もっと頼って欲しいけどね」



どんな立場なのかは、まだ解らないけど…、うん。僕もそう思う。恐らく、日頃からひとりで抱え込む癖があるのかな?


忙しい人だと言ってたけど、如月さんが傍に居て欲しい時に、居てあげてるのだろうか。


 

全ての答は、紫津木藍にある。




「本日は、これで結構です」



あっマズい。如月さんが帰ってしまう。何か、何かないか?


2人が立ち上がり、出口へ向かう。



あっ…ちょ、ちょっと待って!


「写真を撮らせて頂きたいのですが」


そ、そう!…写真…!


「何でだ?」


後藤さんが、訝しげに僕を見る。



「先程、背中を見せて頂いた時に、恐らく被疑者がつけたと思われる…その…いわゆるキスマークが確認できましたので」


そうだ。視界の隅に入っていた光景を思い出した。グッジョブ僕!



「なんだ、早く言え」


そう言うと、後藤さんは「失礼します」と、服を捲ろうとした…その時、



「イヤ…ッ」



……えっ?



……何?今の声。




「…ごめんなさい! あの…オレ…」




…何?この反応。



……か…可愛い過ぎる!!




それから如月さんは、後藤さんに促されて、フード、マスクと眼鏡を外した。


ゆっくりと顔を上げた如月さんは、こちらを見た。



「これで、良いですか?」



艶々の黒髪、揺れてる大きな瞳、小刻みに震えてるピンク色のぷっくりとした唇、うっすらと紅潮している頬……



僕の心臓がひっくり返ったみたいに、ズキーンッとして、こういうのを射抜かれたというのだろうか。



気づいたら如月さんの手を握りしめていて、何かを喚いたと思うんだけど、 

覚えてない…。

 


後藤さんに頭を叩かれて我に返ったけど、時すでに遅し。

怯えた目で僕を見てた…。




名刺をフードに入れるのが精一杯だった。


悪用される危険性があるので、やたらと配れない警察官の名刺。



だけど、何でもいいから繋がりたくて、つい……はあ…。



結局、昨日は連絡無かったな。



「おい、溜め息なんかついてる暇なんてないぞ」


「…すみません」


「紫津木藍と板垣葵に連絡がとれた。今、成田からこっちに向かってる」


「…ぇ…成田…ですか?」


「イタリアに出発するところだった」  


「……旅行…ですか?」


「お前、昨日話聞いてなかったのか? 紫津木さんは、有名なモデルらしい。私は良く解らないが…それより、調書はきちんと取ったんだろうな?」


「それは大丈夫です」


モデルぅ?!


どうせチャラチャラしてるようなヤツなんだろう。



「後藤さん、紫津木藍の担当は僕にして下さい」







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