5
僕は、ますます紫津木藍という人物に、興味を持った。
如月さんに、ここまでさせる人物。
どんな男なんだろう。
すごく優しいとか?優しいだけじゃなくて、男らしいとか?
でもこれじゃ、ただのモテる男だよな?
2人の関係性が判れば…。
「愛ちゃん?何か心配?」
警部が、急に黙ってしまった彼を心配して声をかけた。
「…うん…あの…」
如月さんは、意を決したように後藤さんを見た。
「何か?」
「…藍は…オレをずっと支えてくれています。それだけは、知っておいて下さい」
「大丈夫ですよ。伺った内容の裏づけをとるだけですから」
「…忙しい人だから、オレの事で煩わせたくないし…嫌な思いさせたくない」
もしかして…今のやり取りの中で、嫌な思いをしたのだろうか?だから、紫津木藍には、そんな思いはして欲しくないと?
そんな風に思えるという事は、やはりそれだけ大事な人…て、ことか?
「愛ちゃん? …なんだ…その…紫津木君には、もっと甘えてもいいんじゃないの? オレが彼の立場だったら、もっと頼って欲しいけどね」
どんな立場なのかは、まだ解らないけど…、うん。僕もそう思う。恐らく、日頃からひとりで抱え込む癖があるのかな?
忙しい人だと言ってたけど、如月さんが傍に居て欲しい時に、居てあげてるのだろうか。
全ての答は、紫津木藍にある。
「本日は、これで結構です」
あっマズい。如月さんが帰ってしまう。何か、何かないか?
2人が立ち上がり、出口へ向かう。
あっ…ちょ、ちょっと待って!
「写真を撮らせて頂きたいのですが」
そ、そう!…写真…!
「何でだ?」
後藤さんが、訝しげに僕を見る。
「先程、背中を見せて頂いた時に、恐らく被疑者がつけたと思われる…その…いわゆるキスマークが確認できましたので」
そうだ。視界の隅に入っていた光景を思い出した。グッジョブ僕!
「なんだ、早く言え」
そう言うと、後藤さんは「失礼します」と、服を捲ろうとした…その時、
「イヤ…ッ」
……えっ?
……何?今の声。
「…ごめんなさい! あの…オレ…」
…何?この反応。
……か…可愛い過ぎる!!
それから如月さんは、後藤さんに促されて、フード、マスクと眼鏡を外した。
ゆっくりと顔を上げた如月さんは、こちらを見た。
「これで、良いですか?」
艶々の黒髪、揺れてる大きな瞳、小刻みに震えてるピンク色のぷっくりとした唇、うっすらと紅潮している頬……
僕の心臓がひっくり返ったみたいに、ズキーンッとして、こういうのを射抜かれたというのだろうか。
気づいたら如月さんの手を握りしめていて、何かを喚いたと思うんだけど、
覚えてない…。
後藤さんに頭を叩かれて我に返ったけど、時すでに遅し。
怯えた目で僕を見てた…。
名刺をフードに入れるのが精一杯だった。
悪用される危険性があるので、やたらと配れない警察官の名刺。
だけど、何でもいいから繋がりたくて、つい……はあ…。
結局、昨日は連絡無かったな。
「おい、溜め息なんかついてる暇なんてないぞ」
「…すみません」
「紫津木藍と板垣葵に連絡がとれた。今、成田からこっちに向かってる」
「…ぇ…成田…ですか?」
「イタリアに出発するところだった」
「……旅行…ですか?」
「お前、昨日話聞いてなかったのか? 紫津木さんは、有名なモデルらしい。私は良く解らないが…それより、調書はきちんと取ったんだろうな?」
「それは大丈夫です」
モデルぅ?!
どうせチャラチャラしてるようなヤツなんだろう。
「後藤さん、紫津木藍の担当は僕にして下さい」
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