如月さんは立ち上がり、僕達に背中を向けると、ゆっくりと服を捲った。



……っ!!



警部を含め、そこに同席した3人が、息を呑むのがわかった。


傷だらけ…というより、血だらけといったほうが当たってるかもしれない。


こんなになるまで、擦った…のか?


それより目を引いたのは、それとは対照的な白い肌だ。


その肌は、まるで後光のように、それでいて控えめに輝いているようにみえた。


所々に血の滲んだ絆創膏が、貼ってある。 恐らく、警部ではない誰かに貼らせた。 その人物は、この肌を間近で見、この細い腰にも触れたんだ。  

そう思ってしまった僕の胸は、チリッと痛んだ。


今までのこちらの対応を謝罪すると、少しホッとしたような表情になり、椅子に座り直してから、如月さんは警部の顔を見上げて囁いた。


「ありがとう…哲哉さんに付き添ってもらって…良かった…」


「礼なんて言うなよ。愛ちゃんは、何も悪くない」



ああ。そうか。如月さんは、これまでこんな偏見の中で闘ってきたんだ。


如月さんが、警部に微笑むと、照れたのか、反対側を向いてしまった。


そんなやり取りを見ても、チリッと痛んだ。

僕も如月さんを助けたい。そして、僕にも、あんな風に微笑んで欲しい。



警部は今日、僕達から如月さんを守るために来たんだろう。


問題になるかもしれないのに、後藤さんに掴みかかったのだって、如月さんのため。僕達からの心無い言葉から守るため。


この長机の真ん中から境界線を引かれたみたいで寂しい。


今からじゃ遅いかもだけど、僕だって如月さんの助けになりたい。


それから、少し表情が柔らかくなった如月さんは、どうしてそんな事をするようになったのかを語り始めた。


それでもまだ、乗り越えられていないのだろう、時々、言葉を詰まらせる場面が多々あった。その度、警部は背中をポンポンしたり、肩をさすったりして、落ち着かせようとしていた。

警部の事は信頼してるんだろうな。

そんな場面を見ても、僕の胸はチリッとした。


だけど、僕の胸をもっとチリッとさせたのは、時々出てくる紫津木藍という名前。そして、名前を出す度に少しはにかんだような如月さんの表情。

 

後藤さんは、話に出てきた3人の名前を挙げ、後日、事情を伺う事を伝えた。


それから…


「因みになんですが…紫津木藍さんとは、どういうご関係なんですか?」

と、切り出した。


ナイス!後藤さん♪


これで少しは、この胸のつっかえが取れるかも。


ところが…


「ごめんなさい。それには、答えられません」

と、答えてはくれなかった。



どうして…?これまでの質問には、詰まりながらも、声を震わせながらも答えていたのに。

君が、男達に強要されてきた内容を話すより、ずっと簡単な事なんじゃないのか?



「そうですか…わかりました。いずれにしましても、後ほど連絡先を伺いますので、ご協力お願いします」



そう。僕達には、これ以上は訊けない。

本当に『因みに』訊いてみただけなのだから。






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