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「その前に、子供の名前ですが、『愛』にしようかと思ってます。あの子が産まれたのは、沢山の人達の愛に支えられての事ですので。
男の子なのに、変でしょうか?」
「いや? いいんじゃね? 『愛』ちゃん。可愛いじゃん。な?」
さっきより強めに小突いてみる。
オレの気も知らねぇで、あからさまに、そっぽ向きやがった。
そんなオレらの様子を見て、苦笑いの如月さん。
「…で?」
初めて喋ったと思ったら、何だよその態度…!
流石の如月さんも目を丸くしてたけど、直ぐに笑顔になってくれた。
「私達の結婚は、私の力ではどうしようもありませんでした」
はっ?
ぇ…えっ?
いきなり!?
隣のリュウは、顔色も変えず、如月さんを見つめていた。つか、睨んでる?
「父が出した、時代錯誤の条件も知っていました。ですが、たとえ望んでいなかった結婚だとしても、子供が出来て、親子で暮らしてくうち幸せになれるんじゃないかと、本気で思っていました。すみれが、どんな覚悟で如月家に嫁いで来たかも知らずに」
「……アンタは、すみれさんを愛してるの?」
「……え?」
完全にうなだれていた頭を上げて、リュウを見た。
「ぁ…も…勿論、愛してるよ」
「じゃ、いいんじゃね? 家ん中で、アンタだけが、救いだったのかもな」
リュウのこのセリフに、再びうなだれてしまう。
「あの…答え辛かったら答えて頂かなくてけっこうなんですが…今ほど、すみれとはどんな話を…?」
「…ここまで送ってきた礼を言われただけだ」
ホント、顔色一つ変えないで嘘つけるよな。
尊敬に値する。
如月さんが、チラッとオレの方も見たので、話題を変えた。どうせ、嘘つくの下手クソだよ。
「如月さん、自信無さ過ぎ。子供まで作っておいて、そりゃねぇわ。 レイプしたわけじゃあるまいし、すみれちゃんだって、如月さんの事、愛してるって。な?」
と、リュウに同意を求めてから、如月さんを見た。
ホンの冗談のつもりだった。如月さんを元気づけようと…。
だってそうだろ?
どっからどう見ても紳士な如月さんが、
そんな…
「マジかよ……」
そんなオレの様子に気づいた如月さんが、急に慌てだした。
「ちがっ…違います!違います!そんな事しません!」
「じゃ…何でそんな顔してんの?」
如月さんは、ハッとしたような表情になったが、また直ぐに柔らかい表情に戻って、静かに語り始めた。
「……すみれの心は、いつもどこかにありました。 私ではなく…いつも、遠くを見ているようで…。 それは、昼だけでなく、夜もそうで…。 特別、拒まれもしませんでしたが、その瞳には、私は映ってませんでした」
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