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手術室前の長椅子には、メガネさんと如月さんが並んで座っていて、こちらに気がつくと、2人共立ち上がってオレらの様子を伺っている。
2人共、何か言いたそうだな。
口火を切ったのは、メガネさんだ。
「…あの…今、警察の方がいらっしゃって、バイクを病院の駐輪場まで届けてくれたそうです」
そう説明してから、キーをオレらの前に差し出した。
「サンキュー、メガネさん。これで帰れんな」
「……あ」
如月さんが、何かを見て声を出した。
その何かに、いち早く気づいたのはリュウ。
乱暴にオレのキーも一緒に掴むと、素早くポケットにしまった。
その一連の動作を見てから、ようやく気がついたオレ。
イルカのストラップだ…
メガネさんも気がついたのか、場の空気を変えようとわざとらしく切り出した。
「如月さん、彼にお話があるんですよね ?」
「…ぁ…はい」
*****
売店横の喫煙所。
オレらは、煙草を吸う為に入った訳じゃない。
ただ個室になっていて、外界と遮断されているという、その理由で。
2人からお願いされちゃったオレは、この空間に一緒にいる…
はぁ……
この空気……
メガネさんに『お願いします』なんて…真面目な顔で送り出されたオレ…
この後、どうなんだろ。
「…先程は、父が大変失礼な態度をとってしまって、すみませんでした」
と、頭を下げてきた。
オレですら知ってる大きな会社の御曹司。きっと会社でも、かなりの地位のはずだ。
それなのに、オレらみたいな人間にも頭を下げることが出来るなんて…どんだけ人間できてんだよ。
「……あれが普通なんじゃないスか?」
返事すらしねぇリュウに代わって、オレが返事をした。
元々リュウは、話す方じゃないし、予想は出来たけど…
この場の第三者は辛い…。
「そう言っていただけるなんて、お心が広い。……父には、帰っていただいたので…もう大丈夫です」
と、ニコッと笑った。
あんな糞ジジィの子供だなんて思えない。
ああ、金持ちだから乳母がいたとか?
長ーいテーブルの端と端で食事して、1日の中で、めったに顔も合わせない…とか?
「私の話というのは…」
と、如月さんが切り出した。
やべ。妄想してる場合じゃねぇ。
「話…と言いますか…決意表明みたいなものを貴方がたに、聞いて頂きたいのです。宜しいですか?」
「はあ…聞くだけでいいなら」
さっきから一言も発しない隣のヤツを肘で突っついて返事を促した。
本来この返事は、オレじゃなくてお前だろ?
ったく…!
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