風でヒラヒラなびいているスカートの裾を見ていたら、一年前の事が思い出された。


如月グループの御曹司と結婚する事になった。もう会えない。

それだけ言い残し、走り去っていった。

オレ達は、突然の話で内容も理解出来ず、ただ走り去るすみれちゃんの後ろ姿を見つめていた。

その後、リュウにはメガネさんから話があったみたいだけど、内容的には、大して変わりは無かったみたいだ。


今、2人はどんな気持ちなんだろう。

彼女なんて出来た事ねぇし、オレには、わかんねぇけど…。


けど…すみれちゃん、自分を前に出す方じゃ無かったし、つきあい始めたのだって、オレが焚きつけたからで、だから…

今日、ここに来たのだって、すげぇ決意で来たんじゃねぇか?て…


何もなきゃいいけど。


オレの考え過ぎ…だよな?




遠くから聞き慣れたサイレン。


もう来たのかよ。つか、連休なのに働いてんじゃねぇよ。


徐々に近づいて来る。そして、



『前を走行中のバイク2台止まりなさい!』



クソッ



『速やかに脇に寄せて止まりなさい!』



今は、オメェらと遊んでやってる余裕がねぇんだよ。


オレは、進路を塞ぐように真ん中に寄る。

コイツらだけでも行かせねぇと。


リュウと併走する形をとり、合図を送る。



ここは、オレに任せろ! 先に行け!



リュウは、片手を挙げ合図に応えた。


オレは、ワザとゆっくり走り、進路と視界を塞ぐ。そして蛇行運転。


リュウの単車が、脇道に逸れようと少しスピードを緩めて身体を傾け始めた。


それを見届け、気が緩んだ瞬間…


目の前から来たパトカーに気づくのが、一瞬遅れた…!!


やべぇ、間に合わねぇ…!!


とっさにハンドルを切ったが、横滑りしながら、パトカーの車体めがけて突っ込んでいく。



止まれぇぇぇぇ!!!!!!!!





おっ?!



とまっ…た?! 



ぅぉおおっ!すっげぇ!



後、1cm…て、ところかな?



大きく息を吐いた。



あっ!それより、リュウは?!


リュウが向かっていった方向を見ると、


クソッ…まだ居やがった。


路肩に停めて、オレの様子を伺ってる。


…ぁのバカ!


リュウ!何やってんだ。早く行け!


身振り手振りで合図を送る。



「自分が犠牲になって、仲間を逃がすのか?」



オレを止めたパトカーから一人のお巡りが降りてきた。


ああ。いつものオヤジだ。



「うるせぇクソじじぃ!急に出てくんじゃねぇよ!死ぬだろ!」


「お前が、そんなタマか?」


「オレらのために、2台かよ。暇なのか? だいたい何でアイツまで? 何か法に引っかかる事しましたか?!」

 


こんな時の為に、アイツらにはメットを被せた。(オレは被ってねぇけど)


スピード?20キロオーバー位普通だろ。すみれちゃん乗っけてるから、いつもより遅いくらいだ。


すると、そのお巡りは、やれやれとでも言いたげに首を横に振りながら、どデカい溜め息をついた。


「私の目は節穴じゃない。いつもと様子が違う事位解る」


「ぁあ?」


「彼女は?具合が悪いのか?ヒモで縛ってるという事は、力が入らないのか?意識はあるのか?」



…このオッサン、何が言いたいんだ?


すみれちゃんをどうするつもりなんだ?



「まだ解らんのか? お前らのために、この車を使ってやってもいいと、言ってるんだ」





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