8
まさか、シノに限ってそんな事するはずがない。
いや…でも…
アイツに任せて、その場を離れたことを少しだけ悔いた。
リビングに入って、オレの目に飛び込んできた2人は…
シノの腕の中に収まってる愛ちゃんの姿…
なっ…?!
掴みかかりたい気持ちを抑え、2人に歩み寄る間に気持ちを整え、シノの肩を掴んだ。
「シノ…何してんのかな?」
一応、笑顔を作ってみたけど、ちゃんと笑えてるかなんて、どうでも良かった。
オレの問いにキョトンとした顔をしていたが、自分の胸に顔を埋めてる愛ちゃんを確認すると、「ぁ…」と、小さく呟いて、両手を愛ちゃんの背中から離した。
何だよそれ。無実だとでもいうのかよ。
「愛ちゃん? 大丈夫?」
「…ぇ?…ぁ…北本君?」
愛ちゃんは、シノから身体を離してオレを見上げた。
その目は、とろんとしていて、さっきより酔ってる事が伺える。
「ぁ…ののちゃん、ごめんね。ありがとう」
は? ののちゃん?
突っ込みたい気持ちを抑え、愛ちゃんに確認する。
「何があったの?」
「あのね…ののちゃんの銀色の髪に触ってみたくて…手を伸ばしたら…フラついちゃって…ヘヘッ…ごめんなさい」
なんだ…そういう事かよ…
「北本。肩痛ぇんだけど?」
「…ぁ…わりぃ」
つい、力が入った。
「それじゃ…触ってみる?」
「うん!」
シノは、触りやすいように頭を愛ちゃんの前に出した。
嬉しそうに、そっと髪に触れる愛ちゃん。
「うわぁ…柔らかい…きれぇ」
瞳をキラキラさせてる。
そんな愛ちゃんを見ていると、オレの髪も触ってみる?なんて…馬鹿なセリフが頭に浮かぶ。
「ねぇ。こんなに綺麗なんだから、叱っちゃダメだよ。宮内さん?」
…え?宮内?
背後を振り返ると、宮内だけじゃなくて須藤さんと一条さんもそこに立っていた。
3人で並んで立っていられると、威圧感がハンパない。
『ただじゃすまない』一条さんの言葉を思い出し身震いする。
怖ぇ。
「綺麗だとは思わない」
宮内は、一言だけそう呟くとキッチンに戻っていき、2人も何も言わずにリビングを後にした。
「それよりシノ。きちんと話せたのか?」
「ああ。マジ天使だった」
「は?何だよ、それ」
「…あんな事があったのに…心が綺麗な人だな」
「…惚れんなよ」
冗談っぽく言ったつもりだった。
「…自分が惚れてるから?」
この返しに、直ぐに言葉が出てこない。
真っ直ぐに見つめてくるコイツの瞳を見ながら、黒目がデカいな…とか…睫毛なが!とか…思いながらも、答えられないでいると、
「また2人で、難しい話してるの?」
愛ちゃんが、沈黙を破ってくれた。
「ぁ……そういえば…愛ちゃん? 何でコイツが、ののちゃんなわけ?」
「ぇ?…ののちゃんじゃないの?」
はい?
ダメだ…シラフのコイツに訊くか。
そう思って、シノを見ると、
「ああ。愛さん、しののめって、言い辛いみたいで」
…で、ののちゃんね。合わねぇ。
口許を緩ませて居ると、シノがこんな事を言いやがった。
「実は、オレのこと、ののって呼ぶ人が、もう一人いる」
ぅ…それって…
「…まさか?」
「紫津木藍。流石、恋人ですね」
ああ、そうかよ。
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