まさか、シノに限ってそんな事するはずがない。


いや…でも…


アイツに任せて、その場を離れたことを少しだけ悔いた。


リビングに入って、オレの目に飛び込んできた2人は…


シノの腕の中に収まってる愛ちゃんの姿…


なっ…?!


掴みかかりたい気持ちを抑え、2人に歩み寄る間に気持ちを整え、シノの肩を掴んだ。


「シノ…何してんのかな?」


一応、笑顔を作ってみたけど、ちゃんと笑えてるかなんて、どうでも良かった。


オレの問いにキョトンとした顔をしていたが、自分の胸に顔を埋めてる愛ちゃんを確認すると、「ぁ…」と、小さく呟いて、両手を愛ちゃんの背中から離した。


何だよそれ。無実だとでもいうのかよ。



「愛ちゃん? 大丈夫?」


「…ぇ?…ぁ…北本君?」



愛ちゃんは、シノから身体を離してオレを見上げた。

その目は、とろんとしていて、さっきより酔ってる事が伺える。



「ぁ…ののちゃん、ごめんね。ありがとう」


は? ののちゃん? 


突っ込みたい気持ちを抑え、愛ちゃんに確認する。


「何があったの?」


「あのね…ののちゃんの銀色の髪に触ってみたくて…手を伸ばしたら…フラついちゃって…ヘヘッ…ごめんなさい」


なんだ…そういう事かよ…



「北本。肩痛ぇんだけど?」


「…ぁ…わりぃ」


つい、力が入った。



「それじゃ…触ってみる?」


「うん!」



シノは、触りやすいように頭を愛ちゃんの前に出した。


嬉しそうに、そっと髪に触れる愛ちゃん。


「うわぁ…柔らかい…きれぇ」


瞳をキラキラさせてる。


そんな愛ちゃんを見ていると、オレの髪も触ってみる?なんて…馬鹿なセリフが頭に浮かぶ。



「ねぇ。こんなに綺麗なんだから、叱っちゃダメだよ。宮内さん?」


 …え?宮内?


背後を振り返ると、宮内だけじゃなくて須藤さんと一条さんもそこに立っていた。


3人で並んで立っていられると、威圧感がハンパない。


『ただじゃすまない』一条さんの言葉を思い出し身震いする。 


怖ぇ。



「綺麗だとは思わない」


宮内は、一言だけそう呟くとキッチンに戻っていき、2人も何も言わずにリビングを後にした。



「それよりシノ。きちんと話せたのか?」


「ああ。マジ天使だった」


「は?何だよ、それ」


「…あんな事があったのに…心が綺麗な人だな」


「…惚れんなよ」


冗談っぽく言ったつもりだった。


「…自分が惚れてるから?」


この返しに、直ぐに言葉が出てこない。  


真っ直ぐに見つめてくるコイツの瞳を見ながら、黒目がデカいな…とか…睫毛なが!とか…思いながらも、答えられないでいると、


「また2人で、難しい話してるの?」


愛ちゃんが、沈黙を破ってくれた。



「ぁ……そういえば…愛ちゃん? 何でコイツが、ののちゃんなわけ?」


「ぇ?…ののちゃんじゃないの?」


はい?


ダメだ…シラフのコイツに訊くか。


そう思って、シノを見ると、



「ああ。愛さん、しののめって、言い辛いみたいで」


…で、ののちゃんね。合わねぇ。


口許を緩ませて居ると、シノがこんな事を言いやがった。



「実は、オレのこと、ののって呼ぶ人が、もう一人いる」



ぅ…それって…



「…まさか?」


「紫津木藍。流石、恋人ですね」



ああ、そうかよ。





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