キッチンに入ると、3人と視線が合った。

 

もしかして…


「…聞いてました?」



須藤さんは、ニカッと笑って二の腕辺りをポンポンと叩くと


「いい腕してんじゃん」


と、揶揄うような笑顔を見せた。



「そんな…大した事はしてませんよ」



オレもそれに乗っかって、笑顔を貼り付けおどけてみせる。

 


「まっ、オレが行こうとしたら、リュウに止められたんだけど」


……ぇ?


「そう…なんですか?」


「私達が行けば、キミの友人がただじゃすまないと思ってね」


「ただじゃ…すまない_て?ぁ…やっぱ、いいです」


「懸命だな」


一条さんは、オレから視線を外し缶ビールに口をつけた。



「まあ、それだけ、愛ちゃんはオレ達にとって特別な存在っていうことだよ」



特別な存在…?宮内を見るとこっちを真っ直ぐ見つめている。

宮内にとっても…ていう事か。  


その辺りは、突っ込まない方がいいんだろうな。



「それに、北本君に任せておけば安心だって、リュウが…」


へぇ…そりゃまた、 


「…どうしてですか?」


「親友の恋人を傷つけたままにしておく筈がない。そう思ったからだ。 違ったかな?」



一条さんは、オレの気持ちを見透かすように瞳の奥まで見つめてきた。


オレは、思わず視線を外してしまった。自分でもよく解ってない気持ちを一条さんに当てられそうで怖くなったから。



「…オレは何もしてません。買い被らないで下さい」



オレは、そのまま空いている一条さんの隣の席に座った。


オレが座ると同時に、須藤さんが氷が入ったグラスを目の前に置いてくれて、


「ウーロン茶しか無いけど、良いか?」


と、ペットボトルのウーロン茶を傾けながら訊いてきた。



「はい。ありがとうございます」

 


注ぎ終わるのを待ってから、オレは一条さんに気になっていた事を訊いてみた。


「愛ちゃん…元気無かったみたいですけど…何かあったんですか?」


「やはり、気づかれました?」


「…まあ」


やりづれぇ…


「藍君と、クリスマスに会えなくなったようで…後で愚痴でも泣き言でも聞いてやって下さい。 私より北本君のほうが話しやすいでしょう」


ああ…だから、あんな泣きそうな顔してたのか…。



「なあ。北本君? そんな顔して、愛ちゃんのこと好きなんじゃないの?」


「は?何言ってるんですか?」


と、笑ってみせた。つか、笑えてる…よな?



「だから、恋愛的な?」


さらに食い下がってくる須藤さん。


酔ってんのか?


「そんな風に思った事なんてありません。あくまで親友の恋人です」


「愛ちゃんに対する視線が柔らかいんだよね。絶対そうだと思ったんだけどな」


「オレはただ、アイツらに幸せになって欲しいだけで…」



そうだ…


紫津木の事を小学校に転校してきた時から見てきたオレは、本当に単純に幸せになって欲しい。

そう思ってきたのは事実で、この気持ちに嘘はない。


ただ…


ただ…愛ちゃんの心からの笑顔を見ることが出来るのは、


紫津木だけだ…


そんな、諦めにも似た気持ちがあるのも事実で…


だから、この気持ちがまだ小さいうちに心の奥底に封印して、オレは、その笑顔が曇らないようにこれからも見守っていくだけ。そう……それで…つか、それが…一番いいんだろ?



「ひゃぁっ…!」



?!!!



今、愛ちゃんの悲鳴…だよな?!



 



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