6
紫津木が不在の時は、オレが愛ちゃんを守る。
「愛ちゃんも答えなくていいからね」
「ぇ…何? …オレ…大丈夫…だよ…?」
だから、無理に笑わなくていいんだって。
「愛ちゃん? 手ぇ握るよ」
愛ちゃんの傍まで行って、予告してから、そっと手に触れた。
「震えてるみたいだから…」
オレの一言で愛ちゃんの大きな瞳から、涙がポロポロ零れだした。
「……ごめんね…オレ……まだまだだね。ヘヘッ…」
愛ちゃんが無理して笑う度、オレの心臓が握り潰されてるみたいで、苦しくなる。
「…なあ、シノ_」
シノの顔を見たら、言葉を失ってしまった。
コイツ…あんな質問しておきながら、すっげぇオロオロしてる。
泣かれて慌てたか?
悪いヤツじゃねぇんだけど…な。
「お前さ、どんな質問したのか、解ってなかったのか?」
驚いたように目を見開いた。
「やっぱそうか…」
愛ちゃんに向き直り、手を握ったまま語りかける。
「ごめんね…コイツ、悪いヤツじゃないんだ。コイツも、紫津木の知り合いで…、その…」
何て言えばいいんだ?
「紫津木藍とケンカした相手です」
は?
シノは、少し距離をとった場所に正坐した。
ケンカでいいのかよ。
「…ケンカ…?」
愛ちゃんが確認するように、オレを見た。
「そう。前に話したケンカの相手がコイツなわけ」
「…ぁ…ボコボコにされた_ていう? ぁ…ごめんなさい」
愛ちゃんが小動物のようにシノを見た。さしずめシノは、狼ってところか?
「ボコボコにされました。紫津木藍は強いですね」
苦笑いを浮かべてる。
「藍に対する誤解は、解けた?」
「……ぇ?」
「藍と何か揉めて、ケンカしたんじゃないの?」
「いや……自分の力を試したかっただけで…」
「…そう。藍は、意味の無いケンカはしないって言ってたから、藍も何か思うところがあったのかもしれないね」
「…そう…なんですか?」
「それに…あの頃、オレの事であること無いこと色々言われてたみたいだから…ごめんね…。手とか足とかに、いつもよりちょっとだけ力が入っちゃったと思うんだ」
「そうですね」と、シノは、弱々しく笑ってから、深々と頭を下げた。
「…失礼な訊き方してすみません。
ただ…アイツに、どう接したらいいか…答えが見つからなくて…」
「アイツ…?」
愛ちゃんの震えは、もう止まっていて、シノを真っ直ぐに見据えていた。
「片思いの相手か?」
チラッとオレを見て小さく頷いた。
「アイツ……好きでもない男に…抱かれてる…」
……ぇ…?
……ぁ……えっ……?
「そんな事させたくねぇけど、オレ達出会い方が最悪で…はっきり言って嫌われてっから…」
ごめん…オレ…コイツの事、可愛いと思っちまった。
どっからどう見ても不良なのに、正坐して肩落として、恋の悩みを打ち明けてる。
オレの前じゃ、こんなに話したことねぇのに、これも愛ちゃんマジックか?
「そっか…それじゃ、えーと…その彼女?」
「…男です」
「…ぁ…ごめんね。その彼について教えて?こんなオレにもアドバイス出来る事があるかもしれない」
オレは、聞かない方がいいかもな。
「愛ちゃん? もうコイツの事怖くないよね?」
「うん。大丈夫」
今度の大丈夫は、本当だな。
「オレ、あっちのチームに行ってるから、色々訊いてやって。もし辛くなったら、いつでも呼んでもらって構わないから」
「うん。ありがとう。頑張るね」
可愛いな、オイ。
オレは、シノに目配せしてから、キッチンに向かった。
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