「北本君?…どうして怖い顔してるの?」


「…え?」

 

ヤバい。その見上げてくる角度。反則だろ?



「ごめんね。何でもないから」


「ホント?」


可愛い過ぎだろ?


チラッとシノを見たら、何を勘違いしたのか、すくっと立って、


「便所」

と、したり顔で出て行きやがった。


「ああ。それより…紫津木、明日も帰ってこれないんだって?」


一瞬で愛ちゃんの表情が曇った。

 

「…うん。今日、電話があって…明日、帰るって…」


「ぇ…?…へぇ…良かったじゃん。クリスマスに、2人で会えるって事だろ?」


「…でも…帰ってきて直ぐお仕事だって…」


…ぁぁ……それでか…


「クリスマスは会えるって聞いてたから…なんか…その分、がっかりしちゃって…ヘヘッ」


「…そっか。でもさ、アイツの事だから、仕事が終わったら会いに来るんじゃねぇの?」


「……うん」


「どうかした?他に何か心配な事あんの?」



愛ちゃんは、目を伏せたままポツリと呟いた。


「電話…一方的に切っちゃったから…怒ってるかも…」



……は?


でも…愛ちゃんの表情を見ると、クリスマスに会えない事より、こっちの方が本当の悩みっぽいな。



「…何で切っちゃったの?」


「…藍の口から聞きたくなかった」


「…何を?」


「『会えない』て…」



!!…ぅ…うわぁ…!



「北本君。藍…きっと呆れてるね…」



ったく…焦れったいつーか…わかってねぇな…


「…何で切ったのか、今みたいに説明すればいいんじゃない? きっとわかってくれるよ。つか、そんな事言われたら、オレだったら嬉しいけどね」


「…そっかな。ありがとう」


と、力無げに小さく笑った。



「藍ね、優しいんだ。どんな事でも許してくれるし…。でも…時々不安になる。上手く説明出来ないけど…」



愛ちゃん…不安になる事なんてないのに。


アイツの溺愛っぷりを見てたらわかる。



「…親友の立場で言わせて貰うと、今までそうだったんなら、これからもそうなんじゃない?」


「……え?」


「アイツの愛は、変わらねぇよ。だから、信じてやって。たとえ愛ちゃんに振られたとしても、ずっと好きなままなんじゃない?」


「えーっ?! 逆はあってもオレが振るなんてありえないよ!」


「じゃあ、何の問題も無いんじゃないかな?」


「え?そ…そうなの?…かな…」



オレは可笑しくて、笑いそうになるのを必死に堪えた。 


ちょっと無理があるかもしれないけど、愛ちゃんは、心配し過ぎなんだよ。



紫津木には、オレからLINE送っておくか。


あんな可愛い理由知ったら、どうなるかな。


さらに甘やかすんじゃねぇか?


あっ…でも…オレから送ったら変に勘ぐるか…?


いや…それはねぇな。アイツは、そんな小さい事気にするタイプじゃねぇし。



「酷いよ、北本君」


「……えっ?」



気付くと、愛ちゃんに至近距離で顔を覗かれていた。



「今笑ってた。真剣に悩んでるのに」


「…違うよ。ごめんね。こっちの事だから」



そうか。笑ってたか…。


……そうだな。なんかこう…胸の辺りが温かいし…


…やっぱ2人が仲良くしてくれないとオレも困る。



「じゃあ、お詫びの印に膝貸して」


「え?ひ…膝…て?」



何を言われたのか、頭の中で整理してる間に、胡座をかいてるオレの左膝…つか太股にちょこんと頭をのせた。


ああ、膝枕…ね。  


「…愛ちゃん?眠いの?」

 


返事の代わりに寝息が…。 


はやっ!


呑み過ぎだな。


考えてみたら、可愛い顔してるけど成人なんだし、酒呑んでもおかしくはないけど…


愛ちゃんも、久しぶりだって言ってたから、紫津木と一緒の時は呑まないようにしてたんだろうな。


ホント…可愛いよ。



「何、ニヤついてるんですか?」



顔を上げると、何か言いたそうなシノが目の前に立っていた。



「…長い便所だったな」


「…おかげで話せたでしよ」



シノは、オレの右隣に胡座をかいて、愛ちゃんの寝顔にチラッと視線を送ってから、唐揚げを摘まんだ。



「オレも、彼女欲しいな…」


「何で、そうなるんですか?」


「オレだって、可愛い彼女つくって愛されてみたいよ」


「今のままじゃ無理じゃないですか?」


今度は、フライドポテトを摘まみだした。


「…どういう意味だよ」


「愛さん以上に好きになれるんですか?」


と、ポテトをタクトのように振りながら、微妙なところを突いてきやがった。



「……何的外れな事言ってんだよ」



そう否定しつつ、愛ちゃんを見下ろした。


オレの膝の上で気持ち良さそうに寝てる。


半開きの口許が可愛らしいな。


思わず、緩みそうな口許を手で隠した。



ああクソッ!


絶対、彼女つくってやる!!





親友の恋人 完




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