「あのね…北本君。」


「ん?」


「オレ…北本君が来てくれて、凄く嬉しい」


……えっ…?


「…へ、へぇ。愛ちゃんに、そんな風に言ってもらえて…オレも嬉しいよ」


不意打ちだ。


いやいや…何が不意打ちなのかは、深く考えるのは止めて、とにかく、いつものように、軽く受け流した。



「…北本君、オレ…」


「…愛?」



一条さん?!


宙をさまよっていたおれの両手は、一条さんの登場により、完全にオレの両脇に位置を決めた。



「早く中に入って頂きなさい」


「あっ…ごめんなさい! オレ…舞い上がっちゃって。ヘヘッ」



愛ちゃんに笑顔を向けていると、愛ちゃんの頭越しに、一条さんの視線が突き刺さった。

牽制されてるのか?

可愛い弟分に、悪い虫がつかないように…とか?

でも、もうついてんじゃん。金髪のデカい虫。


視線が、オレから隣のシノに移った。


一瞬…本当にほんの一瞬だったけど、表情変わったよな?

お互い面識は無いはずだけど…?



「君も早く入りなさい」


シノに声を掛けた一条さんの表情は、もういつものように冷静な対応に戻っていた。


少し離れた場所に立っていたシノが、一条さんの今の一言で、オレの直ぐ隣に歩いてきて、それに反応するように愛ちゃんが、オレのシャツを握った。


オレ達を招き入れようと、少しオレから身体を離した直後だった。



「愛ちゃん?」


シャツを遠慮気味に握って、シノを警戒している愛ちゃんが愛しく思えて…

シノには悪いが、オレがコイツから守ってやる_なんて、馬鹿な妄想をしちまった。



「…北本君のお友達…なんだよね?」


オレのシャツを握り締めたまま、シノに笑いかけてる。

オレの友達だから、怖くても気ぃ遣ってくれてるのが丸分かりで、それがまたいじらしくて…思わず抱き締めて、よしよししたくなってしまう。


そんな愛ちゃんの事を知る由もないシノは、更に近づいてきた。

オレは、それ以上近づいてきたらストップをかけようと待ち構えていたが、ギリ手前で止まって、服のポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。


「オレ…東雲零治って、いいます。これ…どうぞ」


長いリーチを活かして、近づき過ぎない距離から何かを渡す。


その箱には、クリスマス用の包装紙とリボンが…。


ぅっ…コイツ…!


愛ちゃんは、そーっとその箱を受け取ると、何かに気づいたように、パッと表情が明るくなった。


「これ、あのチョコレート専門店の?!」


「…はい」


「急にお誘いしちゃったのに…わざわざ? お店、間に合ったの?」



愛ちゃんは、目をキラキラさせながらシノを質問責めにしてる。



「…はい。ギリ間に合いました」


「ありがとう!凄い嬉しい! このお店のチョコレート大好きなんだ。お店のショーケースなんて、宝石箱みたいで綺麗で可愛くて、オレ…見てるだけで幸せな気持ちになるんだ」


「喜んで貰えて、オレも嬉しいです」

と、シノは小さく微笑んだ。


愛ちゃん、頬がピンク色。


紫津木ぃ! 愛ちゃんが餌付けされてるぞ!






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