LINEに地図を送ってもらうことにして、電話を切った。


さーて。誰を誘う?


とりあえず、マキはダメだ。

アイツといると、やりづれぇ。


何が?


まあ…色々とだよ。


他に……


…つーか、だいたいこんな日に空いてるヤツなんて居るのか?


ふっと、眉根を下げて『ごめんね』と、手を合わせている愛ちゃんの顔が浮かんだ。


探すから。探せばいいんでしょ?


悪態を心の中でついてはみるけど、ついつい口元が緩んでしまう。

それぐらい良いだろ?


……て、誰に言ってんだ?


頭を大きく振って空を見上げる。

何となく暇で、コンビニに出てきた帰り道。


あ……月だ。


満月なのか、そうじゃねぇのか知らねぇけど、どうりで明るい筈だ。


そんなまあるい月を眺めていたら、何故か思い浮かんだヤツがいた。


アイツなら、絶賛片思い中だし、愛ちゃんに会ってみたいって言ってたし、

ちょうどいいんじゃね?


ただし、付き合いが多いヤツだから、直ぐに出てこれるか?なんだけど。


携帯から、ソイツの名前を探し出し、電話番号を発信した。


「あ…オレ。急で悪いんだけど…今から抜けられる? えっ?いや‥何かあったつーか、お前、愛ちゃんに訊いてみたい事があるって言ってたろ? 今から行くから。そう。んじゃ、LINEに地図送る」




*****




待ち合わせしたマンション前で暫く待っていると、

スーッとバイクが現れて、目の前に止まった。

フルフェイスのメットを外したソイツは、オレが待ってた相手。


ソイツは、銀色の髪を乱暴に片手で整えながら、オレの前まで来ると、訝しげな視線をオレに送った。



「……何?」


「いや…てっきり、シノのバイクってマフラーとか、バリバリに改造してんのかと思った。かっこも、普通だし」


「いつの時代の族のイメージだよ」



コイツ、東雲零治しののめれいじは、蒼龍そうりゅうっていう族に属してて、ウチの高校でも有名な不良。


ケンカも強ぇし、背もたけぇし、顔も綺麗だから、女子には密かにファンのコが多い。


なのに、コイツも紫津木と一緒で、好きな相手は、男なんだよね…。



「さっきから何?」


「シノって、意外と真面目だよね…」



真面目っていうワードがかんに障ったのか、呆れたように一瞬天を仰いでから、玄関の方に歩き始めた。


不思議とコイツの事は怖くない。

何を言っても、さらりと受け流してくれる。

オレに言わせて貰えば、何で不良やってるのか、そっちの方が不思議だ。


部屋番号を押し、返答を待つ。


その間も、オレの後ろで大人しく待ってる。おもしれぇ。



『…はい』


一条さんの声だ。


「…北本ッス。今日はお招きいただき、アザーッス」


『……お待ちしておりました』



オレのテンションを軽くスルーする冷静な一条さん。


だけど、この一条さんも結構面白い人間だって事は、知っている。


今日は、その辺りも深く掘り下げてみたいんだよね。


ロビーの扉が開き、中に入る。


エレベーターのボタンを押しながら、背後に居る人物に振り返って、最後の確認をする。



「なあ。愛ちゃんには、シノの事、なんて紹介する?」



何が?みたいな顔をしてる。


「恋人にケンカ売った相手って、紹介していいのかよ」


「…あんなの……ケンカじゃねぇよ」



扉が開き、オレより先に入るシノ。オレも続いて入る。


ボタンを押し、扉を閉める。



「お前らの中じゃそうなのかもしれないけどさ…」



でもまあ…愛ちゃんも、そんな細かい事気にしねぇかな。


目的の階に到着し、扉が開いた。


コイツには、片思いだが好きなヤツがいるし、安全だと思ったんだが…

整った横顔見ていると、自信が無くなるな…


ぁ…コイツは、大丈夫でも、愛ちゃんが気に入るかもしれないな…


_て、だから?


だからなんだよ。


安全ってなんだよ。どの立場だよ。オレ…

  

コイツの性格は、オレが保証する。


オレが望むことってなんだ?


いや…この際…オレの気持ちなんて関係無い。


シノが愛ちゃんに訊きたい事があって、オレは2人を引き合わせるだけだ。



部屋に到着し、インターフォンを押す。


すると、勢い良く扉が開き、そこには愛ちゃんの笑顔が広がっていた。



「愛ちゃん。久しぶり」


と、顔の横で手のひらをヒラヒラさせる。


そんなオレを見て、いっそう笑顔を深くさせたが、直ぐに切なそうに顔を歪め、オレの胸に飛び込んできた。


「…愛ちゃん…?」


「…北本君」



何があった?と、思うより先に、愛ちゃんがオレに心を許してくれてる。そう安堵していたオレに驚いた。









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