現代日本のアウトロー社会を舞台に、いまいち勤労意欲の感じられない情報屋の男が、殺し屋の暗躍する案件に身を投じるお話。
個性的な登場人物が超常能力を駆使して敵と戦う、いわゆる異能バトルものの現代ファンタジーです。
まさに「異能」の醍醐味を煮詰めたかのような異能の設定に、物語そのものは竹を割ったような勧善懲悪(あかん感じの敵キャラをぶちのめす)であるなど、きっちりエンタメしてくれるところが大変魅力的でした。異能バトルに求めるものがしっかりたっぷり詰まった作品。
その上で、本作の特色はやはり主人公の造形。ひいてはお話全体に通底する主題でもあるのですけれど、「働くこと(お仕事、労働)」について描かれているところが本当に好きです。
軸のある主人公はそれだけで魅力的というか、過去の職務経験が現在の彼を(ひいてはその異能さえ!)構成しているのがわかって、何か地の通った生々しさのようなものに惹きつけられます。
異能バトルといっても決して青くも若くもない、ある種の大人らしいドライさに惹きつけられる作品でした。
舐めていた――!
尖ったタイトル、開いた1ページにまるごと詰めこまれる一万以上の文字数……それらのファーストインプレッションから不安を感じながら読み進めてみたら、謎めいたとある企業の場面から、とぼけた味わいの主人公と、彼に仕事を持ってくるヤクザが登場してきてから面白さが止まらなくなる。
時任が事前に情報屋の経歴を調べていたり、敵の動機も最初に説明されていたり、作品内の裏社会リアリティが確立していることが分かってくるからだ。
そして魅力的なキャラクター!
ブラック企業で働いた後、情報屋に転身した主人公の満田は、その強力な能力に反して草食系を極めたような「おとなしい」人物。その彼の持論にツッコミを入れる時任との掛け合いも楽しいのだが、彼が火を付けられる動機が「縄張りを侵された」なのがまたキャラ立ちしていて好き。
また、事務所の壁から飛び立つ蜜蜂や、びっしり目標に群がるシーンなど、絵面的なインパクトに優れたシーンも多々あり、実にエンターティメント。
満田の能力がかなり強くて便利で、かつあまり働きたくない主人公なので、彼がそんな能力を持っているとは知らない時任がいかに彼を動かすか。二人のやり取りがもっと見たくなるエンディングでした。