第22話 SHE RIDES A HARLEY-DAVIDSON
〝R.J.ソロー〟ことボビィ・ストーンはかつて歌番組のダーツゲームで見事ハーレーを獲得した。
だが若き日のバイク事故による恐怖症で乗れず、それを友人のブリウスにプレゼントしたのだ。
それは久方振りのボビィからの電話。
《ハーレーの調子はどうだいブリウス》
「おーぅ絶好調で乗ってるぜぃ! 娘が」
《あれをサラちゃんがあ? ひぇ〜〜っっ!》
一九九四年、快晴の春。
フリーホイールの地、プディング宅。
二年間の専門学校生活を終えたサラは次なる旅支度をしていた。
外で父ブリウスがハーレーBOSS HOSSを磨いている。
荷物をまとめたサラがちょこちょこやって来る。
「わあ! ピッカピカ、ありがとうパパ」
「だろう? 俺が乗ってこうかな〜」
「一緒に行く?」
「やめとく。俺は命が惜しい」
青い空に白いシーツがなびいている。
小さな庭に、穏やかな陽射し。
ブリウスは遠くの尾根に友ジャックを想う。
彼との出会いが始まりだった。
ジャックが奪ったとされる金を巡っての騒動は終結した。
ジャックは二億を入れたギターケースを車のバックシートに隠していた。
それはあの襲撃の後、車の修理工場で発見された。
クリシアはブリウスと話し合い、それを震災義援金として寄付した。
『ウォルチタウアーはムショで死んだ。安心しろ』とその後レイ・ニードルから電話があった。
レイやダグラスがこれからも陰で見守るという。
ジャックとの出会い。ブリウスに悔いはない。
彼は最後まで《妹を頼む》と言った。――そう、クリシアは俺が守る……。
決意を新たにブリウスは煙草を揉み消し、サラを見た。
随分悩ませた。つらい思いをたくさんさせた。
それでも少女のままの瞳で見つめてくれた。
君がいてくれた、それだけで……。
感涙鼻汁垂れまくりのブリウスをサラが見る。
「うぇー。パパブサイク」
「は、ハハ……うるさいわい」
サラはその顔をティシュで拭いてあげる。
「……ごめんな。お前を困らせてばかりで」
「もう言わない。パパがどんなでも、大好きよ」
「お前には感謝しかない。パパもママもお前が誇りだ。大好きだ」
二人は笑顔で頷いた。
「……サラ。ママと話したか?」
「うん。昨日の夜、ゆっくり」
「そっか。……じゃ、もう行くんだな」
「うん」
サラは家の中にいるクリシアに。
「ママーーッ! そろそろ行くねーーっ!」
洗濯籠を持ったクリシアが慌てて走ってくる。
「はーーい! 気をつけて! 行ってらっしゃい」
****
SHE RIDES A HARLEY-DAVIDSON
私はハーレーに乗って
賢者の告げた伝説の聖地へ向かった
絶望と悪夢を消し去るため
信じていたから出来たこと
たとえほんの僅かでも 私は希望を持っていた
旅の途中 冷やかされたけど気にも留めなかった
ハーレーに乗って
私はずっと思い出を辿っていた
行く手に広がる知らない街や風が未来なら
全ての思い出を持って私はそこへ向かう
夢でも目的があったから
生きて来られたのかもしれない
気がつくと時が迫り
太陽が現実を突きつけていた
夢を追い続けた罰とは思わない
それはこれから始まる新たな旅の密かな啓示
彼は言った
「サラ、君は長い間まるで矢のようにずっと走り続けていた」と
私は頷き
「私にだって道に立てないほどつらい時がある」
と言った
ソローのように森で一人で生きていけたら素晴らしいと思う
〝生活でないものは拒み 死ぬ時に悔いのないよう生きるために〟
でも一人で生きていけるほど
私はそれほど強くない
私の準備はできている
あとは一緒に走るだけ
私はハーレーに乗って
はるか道を行く
私はハーレーに乗って
華やぐ未来へ
END
****
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
サラ SARA unknown legend 宝輪 鳳空 @howlin
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