第21話 光の竜

 死神帝国ネオ・ナピスの男ネプチューンはニヤリと歯をむき出し、武器を背丈ほどに伸ばした。

「〝聖なる生命の水〟はこの俺様だけのものだ。誰にも渡さん」

 アーロは訊く。

「何者なんだ、あんた! 何を企んでる? セイレイを返せ!」

「……俺は海神ネプチューン。水を司る神を名のる。我々ネオ・ナピスは新たなエネルギーを求めている。不死のパワーをな」

 彼は両手を広げ光の竜を仰ぐ。

「百三十年前、国はシュガーマウンテンの伝説を知り、お前ら先住民を追い払い占領し所有したが、探査チームは何も発見できなかった。だが俺は信じ、待ち続けた。〝光の竜はリバ族と共にある〟……不死の水伝説はお前らリバとこの地を切り離しては語れなかったわけだ」


 《リバ族の者が動く時、何かが起きる》その時を待っていたネプチューンはオールドマンのもとから東へ、ここシュガーマウンテンへ向かう者の情報を掴んだ。


 彼は二つのセイレイをかざす。

「水を手に入れ、俺が全てを支配するのだ……」

 拳を握りしめるアーロ。

「バカな! そんな戯言……」

RIVAリバ族の者よ! セイレイを返して欲しいか?」

 ネプチューンはそう言ってセイレイをはるか宙に放った。

 見上げるアーロ、その一瞬! 接近したネプチューンの鋭利な銛の刃がアーロの胸を突き刺した。

 舞い降りる二つのセイレイをネプチューンはキャッチし、再びアーロの傍らへ。


 倒れたアーロは動けない……白目をむき、もう青ざめている。

 サラは震え泣き叫んだ。

「あ…あぁ…… アーーローーーーッ!」

「ワァーッハッハ! バカな人間め!」

「アーロ、アーーロッ!!」


 ネプチューンはアーロの胸から銛を引き抜き、そのセイレイも手に入れた。

「この石の力よ! リバ族の守護石セイレイ、光の竜、聖なる生命の水は繋がっている。それは地球大自然の神秘の力。あの彗星が地球に眠る無限のパワーを呼び覚ましたのだ」


 ネプチューンの骨張った顔が怖ろしく歪んでゆく。

 魔物の血が暗黒の風を引き起こした。

「この〝死の峡谷〟この魔境こそネオ・ナピスの新たな拠点に相応しい。力が漲ってくる。さあ、光の竜よ。早く聖なる水を私に授けてくれ!」


 血塗れで泣き喚くサラ。

 彼女はネプチューンの足を掴んだ。

「あ、あんたっ! 絶対に許さない、絶対に!」

「……んん? 何だ? 女め。何か言ったか?」

 ネプチューンは片足でサラを軽く振り払い、銛を回し大きくかざした。

「あ、あぁ……」

「ここまで案内ありがとな。ガイドさん……」

 そう言って笑い、彼女の背中を狙おうとしたその時、サラのウエストポーチが眩く光った。

 その力がネプチューンを岩肌に弾き飛ばした。

「う、うぐっ! 何だと?!」


 それはオールドマンが渡した御守り……受け継がれしゴールドハートのセイレイの力。

 そして宙空の光の竜が青い炎を上げ轟々と唸り次の瞬間、サラを狙うネプチューンに襲いかかった!



 竜は青白い閃光と化し、その胴を貫いた。

 ネプチューンは真っ二つに裂かれ、魔境の谷底へ落ちて行った……。



 ****



 シュガーマウンテン。

 かつてのリバ族の空に青い月の静寂。

 慎ましく、虫たちが唄う。

 風が優しく頬を撫でる。



 暖かく焚き火に照らされて、アーロはうっすら目を覚ました。

 黄色いパーカーが肩に掛かっている。

 胸に手を当てる。傷などない。心臓がトクトク脈打っている。

 ふと見渡すと、サラが潤んだ目で見つめていた。


「サラ……」

 身を起こす前にサラが寄り添った。

「アーロ……」

「サラ……〝水〟は?」

「ええ。手に入れたわ」

 岩肌にラグーンの光が射し込んでいる。

「そうか……よかった……」

「だからあなたも助かったのよ。伝説は本当だった」

 そう言ってサラはアーロを抱きしめた。

「俺は……不甲斐なくて」

「ううん、いいの。こうしてまた……あなたと話せるだけで」

「ありがとう。嬉しい……」

 震える声でサラは言った。

「あなたがいるだけでいいの」

 アーロは彼女の髪を撫で、濡れる頬にキスをした。

「……俺はずっと、君を守っていきたいんだ……」

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