second season

第15話 バッドランズ採石場


 〜第2章〜 second season


 ……そして、時は過ぎること五年。


 一九九二年八月。場所はバッドランズ採石場。

 今日もその日最後まで走り続けた十トンダンプが帰ってきた。R.J.ソローのロック曲を大音量で流しながら。

 事務所から出てきた所長のイディオはいつものようにニヤニヤしながらそれを迎えた。

 そのダンプの運転手は溜息をつき、ハンドルを切って車庫入れする。

 サイドブレーキを引き、近づいてくるイディオを見ながら煙草に火を着け膝を立てた。


 茶封筒を手にイディオが寄ってくる。

 運転手はそのまま足でドアを蹴り開けた。

 イディオはびっくり仰天し慌てよろけた。


「コラァ! 何て開け方するんだ! 当たるところだったぞ!」

 細い目を吊り上げてイディオは怒鳴った。

 バーカ、当てようとしたんだよと胸の内で運転手は見下ろす。

「せっかく給料持ってきてやったのに、渡さんぞ! その歌も喧しい、頭に響く!」

「足が滑っちゃって」と言い、運転手はラジオを消しエンジンを切ってすっくとダンプを降りた。

 デニムの作業着にキャップ。束ねた髪が肩に揺れた。



 このイディオという男はタチが悪かった。

 頭頂部は薄く脂ぎり、腹はだらしなく、品もなく、破廉恥極まりなかった。



 運転手は給料を受け取った。

 イディオは小さな目玉をギラつかせて言った。

「俺と遊んでくれたら、その二倍払うよ……」

 次の瞬間、運転手――彼女はイディオの顔面を思いっきり殴りつけた。

 二メートル、そのまま後方へスッ飛ぶイディオ。

 鼻血を垂らしひっくり返って無様な腹を晒す。


「な、何しやがんだあ! このクソ……」

 彼女はスコップを手に、迫った。

 そして足先で彼の胸元を押さえ凄んだ。

「ほら。かかって来なよ。あたしにとっての遊びってのは喧嘩さ。このスケベ野郎」

「何をぉ! ク、クビだ! クビにしてやる!」

「勝手にしな。あたしゃコレを待ってたんだ」

 そう言って左手に持った給料袋を振る。

 右手にはスコップが。

「今月分まで待ってた。あんた……この三ヶ月しつこかったねぇ……でもそれも今日までよ」

「このクソ」

 その眉間にスコップを突き付ける。

「うわ、やめ」

「あんた奥さんか娘は?」

「は、はぁ? ……い、いますいますだから助けて」

「もしその家族がこんな仕打ち受けたら、あんたどう思うよ。ちったぁ考えろ!」

 振り上げられるスコップ。

 しかしそれは手から落ち、代わりに平手が一発、イディオの頬に叩きつけられた。


 そして彼女――サラは立ち上がり、採石場にはもう二度と戻らなかった……。

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