第10話 レイ・ニードルとダグラス・ステイヤー

 エルドランド国軍の密約。

 最新鋭の武器弾薬兵器の開発、生産にはある組織が関与していた。

 それは〝死神帝国〟と畏怖される闇組織ネオ・ナピス。

 その幹部の一人〝ネプチューン〟と呼ばれる男はを待っていた。



 昔、先住民族ズマの男は言った。

「リバの死の峡谷に棲む竜の生き血は不老不死だ」

「星が炎のように輝く時、竜も光を放つ」

「碧い石を持つ者に竜が宿る」

 ……などと。他の者は一笑したが、ネプチューンは記憶の隅に留めていた。


 死の峡谷とは何処なのか……。

 調査の末、『リバ族は竜に護られている』と知る。

 善人を装い、リバ族の村長オールドマンに近付いたが、彼は答えなかった。

「ただのお伽話じゃよ」と笑った。


 その場所は何処を指すのか。

 竜の正体とは……。

 竜が現れるのはリバ族の者が動く時。

 組織拡大の鍵を握る〝不死身のエネルギー〟を手に入れるため、それがいつになろうとネプチューンは情報を待っていた……。



 ****



 超一流の殺し屋ライセンス・トゥ・キルやジョーカーマンと同じようにその男レイ・ニードルも早くに裏社会から足を洗った。

 〝殺人中毒マーダー・ジャンキー〟とまで呼ばれた若き日の彼の手を止めたのは反ナピス地下組織ソサエティのリーダー、ダグラス・ステイヤーだった。


 十六年前、ジャック・パインドを煽動していたとされるダグラスを、レイは遂に追い詰めた。

 夜の海、断崖絶壁にダグラスを追い込むレイ。

 レイが銃口を向けた時、突如地が揺れ、想像を絶する巨大な津波が二人を飲み込んだ……。



 ……目が覚めると、レイは焚き火の前。

 傍らでダグラスが枝木を焚べていた。悲しげに彼は言う。

「……自然は恐いなあ」

 ガバッと起き上がるレイの体に激痛が走る。

「うわっ!」

「まだ動かない方がいい。全身岩に叩きつけられて……あちこち骨が折れている」

「くそぉ、……あ、あんたぁ、何で無傷なんだぁ?」

「おお、北部訛りか。鍼師の息子ニルス・ヤグラン。故郷の親御さんは元気か?」

「そったらこと、あんたにゃ関係ねえ!」

「トミー・フェラーリに雇われて、俺をつけ狙ったんだろ?」


 ダグラスは微笑みながらコーヒーを啜った。

 地下組織ソサエティはレイの本名素性全て調べ上げていた。

 手も足も敵わないレイは苛立ち、口を噤んだ。

 ダグラスは彼の手当てをしながら語りかける。

「……若いの。生きる方を選べ。命は生きようとしているのだから」



 レイが目覚めて五日目の朝、憔悴しきったレイにダグラスは叱るように言った。

「つまらん意地を張ってないでこの粥を食え!」


 ……レイはついに口を開けた。

 美味かった。舌に五臓六腑に温もりが沁み入った。

 何も見えなくなるほど、涙が溢れ出た……。

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