第7話 アーロ・ブロンコ

 それから一ヶ月が過ぎた。

 アーロは悪たれタネンのグループから呼び出された。

 体育館の裏。体育倉庫係のサラは彼らがぞろぞろ歩いて行くのを見てしまった。


 アーロは囲まれる。

 番長の〝ブルドッグ〟タネンは正面で腕組みしている。

 子分Aが後ろから軽くド突く。

「やい、何でてめえは喋らねえんだ?」

 Bが右から挑発する。

「勉強できて足も速えのが気に入らねえ」

 Cが左から足を踏みつける。

「夏でもねぇのに日焼けしてますってか?」

 アーロは睨みつけながらCの足を踏み返した。

 Cが暴れる前にタネンがグイッと詰め寄った。

「先住民! てめえは異質なんだよ。自覚あんのか?」

 即座にAがアーロを羽交い締めにし、BとCがそれぞれアーロの足を固めた。

 そして一発、二発……タネンはアーロの腹や胸を殴りつけた。

 歯を食いしばり耐えるアーロに、タネンは荒くれた臭い息を吐きつける。

「何とか言えコノヤロー!」

 アーロは顔を上げ血混じりの唾をタネンに浴びせ、言った。

「全然効かねぇ……ヤワなパンチだな。ブルドッグ」


 烈火の如く巨漢タネンは吠えたくり、アーロを投げ飛ばした。

 勢いで子分たちもひっくり返った。

 タネンがアーロに馬乗りになり拳を振り上げたところで、その腕は取り押さえられた。


「何?!」

 タネンの腕を掴んでいるのは……

「サラ、何だてめえは! スッ込んでろっ!」

 サラは可愛く笑って言った。

「スッ込んでろはないでしょ? あんたと決着つけに来たのに」

「はあ?」

「あんたとは……あんたがベスのクレヨン折った時からの因縁よ。今日、ここで決着をつけましょ」

「何ふざけたことを言ってやがるっっ、そんなのは……」

 聞かず、サラはそのままタネンの耳を掴み引っ張り上げ、立たせた。


 対峙する二人。

 素早く立ち上がったアーロがサラに言う。

「プディング、余計なことするな!」

 ジャージ姿のサラは凛と返す。

「そんなんじゃないわ。このブルドッグはあちこち噛みつくから。今日……今がちょうどいいと思っただけよ」


 殺気! 突如狂犬タネンが襲いかかった!

 瞬間、サラのローリングソバット(旋回後ろ蹴り)が炸裂する!


 タネンのたるんだ頬にヒット、タネンは白目をむいてドスンと地に沈んだ。

 あまりの早さと華麗さに子分Aは思わず拍手してBとCに小突かれた。

 アーロはしばらく見つめた後、黙って立ち去った。

 サラは子分たちにしっしっと退散を促し、彼らはおとなしく従った。

 そしてちょこんとしゃがんで伸びてるタネンの鼻をつまんでみる。

 キマリすぎたかしら……ふと、サラはそこに落ちているものに気づいた。

 それは碧く輝く石のネックレス。


「わ、綺麗〜〜! トンボの目みたーい」

 それを手に取り、サラはその美しさに惹き込まれた。


 ****


 次の朝早く、アーロは体育館の裏でウロウロしていた。

 下を見回し屈んでは立ち、困った様子だ。

 そこへ、

「探し物、これじゃない?」

 振り向くと、サラだった。

「落ちてたわ」

 差し出すそれは彼のネックレス。

「すっごく綺麗な石ね。ちょうだい」

「だめだ」

 サラは渡した。

「ありがとう」とアーロは受け取り、立ち去った。

「ねぇアーロ、それどこに売ってるの?」

 彼は振り向いたが答えず、校舎の中に入っていった。



 また次の日の放課後。

 サラは習っているKARATEを休み、バスに乗り込んだ。

 家とは反対方向のアーロの乗るバスに。

 満員の、彼は一番前の席。サラは最後部の座席に。

 彼の後ろ髪を見つめながら、絶対教えてもらうんだからと、サラはそれほどあの石に魅せられていたのだ。


 やがてバスはかなり山手の田舎道に入り、運転手以外乗っているのはアーロとサラ二人だけになってしまった。

 終点。アーロは降りる。

 何だかたじろいでいるサラを、アーロは外から見上げ、言った。

「プディング。降りろよ。終点だぞ」

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