第6話 蜻蛉の一族〝リバ〟

 時は十九世紀中期。

 〝蜻蛉せいれいの一族〟と呼ばれるリバ族のゴールドハートは、その輝きに目を奪われ立ち尽くした。

 眼前に広がるのは赤い空に映える巨大な〝光のドラゴン〟。



 祈祷師ヘルポレス婆の水晶に見た竜は本当だった。

「およそ百三十年の周期で星が輝き竜が現れ、奇跡をもたらす。それはわしらリバ族の言い伝え……わしらにしか見えん精霊じゃ。怖れず、身を委ね、その導きに従うのじゃ……」


 ゴールドハートは胸のリバ族の守護石セイレイを握りしめ、移動してゆく竜の後を追った。


 彼は病床にある妻に必ず帰ってくると言った。

 入っては二度と戻れないと言われる魔境、その先にあるものを手に入れるために。

 ――帰ったらまた外へ出よう。華やぐ高原を一緒に歩くんだ……。



 その場所は魔境、死の峡谷。

 やがて竜はシギシギと音を立て光を放ちながら、散った。

 はっと我に帰ったゴールドハートの目の前には伝説の湖が。

 〝聖なる生命の水〟を湛えた、シュガーラグーンが広がっていた。



 ****



 一九八六年、サラは十四歳になった。

 情熱的で個性が光っていた。

 英語が好きで夢は将来通訳の仕事もいいと思ったが、世界を旅することが先だった。

 オートバイか4WDに乗り異国の風と匂いを肌で感じたかった。

 そこにしかない美味しいものを食べ、奏でられる音楽を聴き、そして白馬の王子様に出会い――と、果てなき夢を抱く少女だった。


 友達のエリザベスは可憐で淑やかで男子から誘われることも。

 それを護るのがサラの役目だった。

 エリザベスのボディガードとして目を光らせていた。

 明るく笑顔を絶やさない挫けない。

 ブリウスもクリシアもそれが嬉しかった。



 ……一匹のトンボが肩を擦り抜けた。

 ある朝、陽の光を透かして。

 サラは自然に追いかけたが、見失った。

 ティンカーベルのように――それは神秘の瞬き……。



 新緑芽吹く通学路。

 いつものようにサラはエリザベスと学校に行く。

「お待たせ! サラ」

「おっはよ〜」

 いつになく目を輝かせながらスキップしているサラを見て、エリザベスは気持ち悪いと言って笑った。

「だって聞いてよベス、私見たの! 透明なトンボ」

「はあ?」

「だから透明なトンボよ、スゥ〜〜ッと飛んでって……すぐに消えちゃったけど」

「確かに暖かくなってきたけど……トンボはまだまだ早いわ。蝶々でしょ?」

「違ったもん……あれは絶対、四枚の羽根がピンと伸びてて、まるで妖精さん。そうよ、あれは」

 ベスが「あっ」と言って指差す。

「わかった。あなたピーターパンの見過ぎ」

「も〜〜う」

 サラは少し口を尖らせ……でもやっぱり気分が良かった。

「キレイだったなあ。何かいいことありそう」

「春だし気をつけるのよ〜」



 新学期の新たな学年。

 サラとエリザベスが同じクラスで席も隣りでいいことあったと喜んでいる一方で、皆の注目は転入生に集まっていた。

 先生が彼を紹介した。

「今日から一緒に勉強する、アーロ・ブロンコ君だ。皆さんよろしくー! ……はい、ご挨拶なさい」


 背が高く、なかなかのハンサムである。

 サラは〝ルー・チャベス〟に似てると思った。

 横のエリザベスがサラを小突いて囁く。

「あなたのタイプそー。超いいことあったじゃん」

 はにかむサラ。でも彼の声は小さく、よく聞こえなかった。


「……アーロ・ブロンコです」

 一番後ろの席の悪たれタネンが品のないデカい声で言った。

「おい! 聞こえねーぞ、先住民リバ!」

 アーロはキッ! と睨んだ。

 タネンは気に入らねえと思った。

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