第4話 R.J.ソローのライブ

「パパ、おかえりー!」

 小学生のサラが勢いよくブリウスの胸に飛び込んでくる。

「おぅ! ただいま、今日も元気だな」

「ねぇいっしょにプロレス見よーよ、早くー!」

「じゃあ、これ食べながらな」と言って差し出すご褒美のケーキ。

「お前の好きなチーズケーキだ」

「やったーー!」


 キッチン。忙しく食事の支度をするクリシア。

「ごめんね。調味料きらしてバタバタしてたの」

「いいよ気にしないで。いつも家族のためにありがとう」

 ブリウスはランチボックスを水に浸した。

「……何よ。あらたまって」

「ハハ……別に」

「……あ。わかったわ。何かおねだり?」

「違う違う。帰りが遅くなって申し訳なくてさ」

 彼の様子で話したい事があるのをクリシアは察した。

「どこへ寄り道してたの?」

「……デスプリンス」

「え?」

「ライセンスに会ってきた」


 忘れたい過去。離れているのがつらかったあの頃。

 前に進むためにも、二人の間であの四年間の事を話すのは避けてきた。


「ごめんなクリシア。近くに行ったものだから」

 ブリウスは、出した手紙も返事はいらないとし、彼なりにクリシアを気遣っていた。


「どうしても顔を見たくて……。随分と痩せていたよ」

 手を動かしながら最後の盛り付けをした後、クリシアは優しく返した。

「言ってくれてもよかったのに。もし次に訪ねる時は早く言って。私も連れて行って」

「……すまない。ありがとう」

「忘れたいけど……あの人は私たちを助けてくれた。やっぱり忘れられないわ」


 そこへ痺れを切らしたサラが駆け込んでくる。

「もうパパ、プロレスおわっちゃうよー! ニッポンのイノキってのが強いのなんの!」

「あ、ああ! ごめんごめんお手伝いしてたんだよ、もうゴハンも出来たから」

 クリシアもパシッと手を合わせ謝った。

「お待たせ! サラ。さ、食べよ!」

 豪華パエリアに目を光らせるサラ。

「わぁー! おいしそーーっ!」



 一ヶ月後、ブリウスのもとにR.J.ソロー〝OUT OF HERE ツアー1981〟その招待券が届いた。

 それはライセンスからブリウスへの謝礼。

 ライセンスがジョーに頼んで送らせたものだった……。



 ****



 一九八一年五月、〝天庭の町〟ヘヴンズフィールドのメインストリート。

 ライブハウス〝pony-boysポニーボーイズ〟に空席はなかった。

 やがてライトが消され暗闇の中、彼がセンターステージへ向かうと待ちかねた客たちは総立ち、熱い歓声と拍手で彼を迎えた。


「お帰り! ボビィー!!」

「ボビィ、待ってたよーっ!」


 ここで彼、〝R.J.ソロー〟=ボビィ・ストーンは唄っていた。

 ここが決意した場所だった。

 二十年振りのこのステージ。

 今夜はあの時と同じ、ブルースハープとアコースティックギター一本の弾き語りで曲を披露するのだ。



 スポットライトが降り注ぎ、低く響く弦と共に彼は唄い始めた。

 数々の名曲〝ライク・ア・ウィンド〟〝リリースト・ブルース〟〝ローリング・ロック〟〝デスプリンスからずっと〟……などをじっくり唄う。

 音の一つ、声の一つに観客は聴き入り、合唱し涙した。


 〝TRAMPS〟〝精霊たちが降りてくる〟といった初期の作品、そして〝FREEDOM〟を繊細に弾き語る。

「ありがとう、みんな……」

 言葉少なにR.J.ソローも喜んでいた。



 素朴に、身に沁みるライブ。

 ウディ・ガスリーの〝朝日のあたる家〟を切なく、そして最後に最高のボルテージで〝Song to Joe〜ジョーに捧げる歌〟を唄い、大合唱で終演を迎えた。



 pony-boys、記念すべき熱い一夜……。




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