第2話 元気いっぱい

「あ〜ぁ、血が出てるじゃない……もう……」

 幼い少女サラは椅子に座ってケラケラ笑ってる。

 クリシアが膝に絆創膏を貼ってあげる。

「でもママ。できるようになったよサカアガリ」

 そう言って鉄棒で汚れた赤い錆だらけの両手を見せた。


 そんなオテンバ娘も眠っている時はやっぱり子猫のようだった。

 ブリウスとクリシアが見つめる。

「ふふ……誰に似たのかしらね」

「お前にそっくりじゃないか。この目も口も」

「性格はあなたよ」

「もうちょーっと清楚にならんか〜」

「性格があなただから無理」

「もうちょーっと可憐にならんか〜」

「性格があなただから荒くれ」

「おま……」


 ****


 サラも小学生になった。

 明るく、誰とでも喋り、友達もすぐにできた。

 わからないことは何でも聞き、元気で正義感に溢れ……時に溢れすぎることもあった。



「プディングさん! お宅ではどういう教育してらっしゃるの? ウチの子見てちょうだいよ、こんなに怪我させられて! どうしてくれるのよ!」と怒鳴り込んでくる母親。

 クリシアは頭を下げる。

「本当に申し訳ありません……」

 サラは柱に隠れてる。

「サラ! こっち来て謝んなさい!」

「だってそのコがエリザベスのクレヨン、ぜんぶわざとおったのよ! このイジメっコ!」

 ベー! と舌を出す。

 その母親の後ろには丸々と体格のいい、顔ボコボコの男の子が……。



 ……その夜の食卓。

「ハッハッハ。タネンのガキをやっつけたって? 番長クラスだろ?」

「笑い事じゃないわブリウス、ちゃんと叱って」

「頼もしいじゃないか! ありゃあデカいくせに根性曲がってら! なぁ、サラ」

「へへへ……」

「イジメっ子の方が悪いもんな!」

「うん!」


 ****


 英単語の授業。

「はーい。じゃあ次は〝H〟で始まる言葉よ。前の席の人から順番に、言ってください」


「え〜と…… HEART!」

「HORSE」「……HAPPY」

「……ヒ、HERE」「ここ! HEAD!」

 先生が次の列を指差す。

「はい、じゃあサラさんから」


「……あ! HARLEY DAVIDSON!」



 エネルギーの塊。

 走るのも男の子を負かすほど。

 鉄棒や跳び箱もみんなに教えてまわった。



 夜、ブリウスがサラと絵を描いて遊んでいる。

 クレヨンを手に、サラのリクエストに応える。

「パパも小っちゃい頃から恐竜大好きだったからなー」

 サラも一生懸命描く。

「ほら、サラできたぞ〜 強そうだろ?」

「ええ? T・レックスはもっとアゴが大きくて手は小っちゃいよ」

「そ、そっかあ? どれ。見せてみな……あ、お前の方が上手い」 

 クリシアがコーヒーとジュースを運んでくる。

 その空気……それは本当に幸せだと、彼女は思えた。


 二人の絵を覗きこむクリシア。

「あら、このトカゲ? カンガルーかしら」

「ママこれT・レックスだって! パパがかいたの」

 ブリウスの絵の下手っぷりにクリシアは思わず吹き出した。

「え? そうなの? ……ぷっ」

「な、なにをぉ〜〜!」

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