欲を映す鏡(月の逆位置)
やりたいことがたくさんあるのに、実際にそれをしようとすると、とたんにやる気がなくなってしまったり、後回しでもいいかと思ってしまうことがある。
「今日の月、いつもよりも大きく見える……なんとかムーンなのかな?」
明日は何をしようかなんてのんきに考えながら、窓から月を見上げてたそがれていた。ここのところ、もやっとするようなことが続いていたこともあり、ぼーっとすることが多くなっていた。
「月が照らす、心を照らす……心の隙間の欲を照らす……ふふふ」
「……こんばんは、ルネさん。来てくれると思ってたよ」
普段何もない時には私から関わりにいかないと来ないが、私がこんな状態になっているとき、決まって彼女は現れる。私もまた、彼女が来てくれるのではないかという期待をしているのかもしれない。
「今日は月が大きく見えるわね」
「月の大きさは欲の大きさ、心の鏡は正直者……ふふふ」
「それって、私の中にある欲が大きいってこと? そんなにうっぷんがたまっているのかな……?」
「月は欲も映し出す。消化されなかった欲が、叶わなかった欲が、月に反射して映し出されるの……ふふふ」
ルネさんはそう言って、月を指さす。その瞬間、月の表面が少し歪み、その歪みから黒い靄のようなものがあふれ出してきているように見えた。何度か瞬きをする間にふっと消え、何事もなかったかのように煌々と光っていた。
「欲……確かにここ最近自分のやりたいと思ったことが出来ていないかも。実際にやろうと思っても、本当に自分のしたいことなのかなとか、いろいろ考えすぎちゃって……結局やらなかったりするんだよね」
「やるからには結果を出したい、誰かのためになるからやりたい……そう思ってる……ふふふ」
「そう、自分がやることで誰かの為になったりするならと思ってる。所詮は自己満足にしかならないのにね」
「……それは違う、貴女の中にある欲は自分のためじゃない。誰かに翻弄されたり懇願されて生まれたもの」
私の心を見透かしているかのように、私の目をじっと見た彼女はそう言った。彼女曰く、私の中に渦巻いている欲の多くは、人から懇願されたり悩みを聞いたりした際に生まれているらしい。そうして生まれた欲というのは、自分との結びつきが極端に薄くなってしまうため、例えその欲を満たしたとしても腑に落ちない。感謝こそされたりはするだろうが、そこまでして自分がしなければいけないことだったのだろうかと考え込んでしまうこともあるという。
「貴女自身が必要だと思ったり、やりたいと思ったことなら、すぐにでも実行する。失敗しても必要なものだから何度も挑戦するし、熱は冷めない」
「そっか……こんな風にもやっとしているのは、自分にとって必要な欲だと思っていないからなのか」
「月は正直者、貴女の欲はもっと奥にある……ふふふ」
ルネさんはまた月を指さす。先程と同じように月の表面が歪んでいるようみ見えたが、その歪みからはきらきらとした光のようなものが漏れている。これが本当の私の欲なんだろう。その光は何度瞬きをしても消えることはなく、ずっとキラキラして見えるのだった。
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