思いを込めたテディベア(正義の逆位置)
趣味の一環で、よくテディベアを作る。手芸店に行った際、安売りしている余り生地をいくつか買い、各部位で型を取ると彩を考えながら縫っていく。テディベアに使うボタンもレジン液で作ったりしながら、世界に一つだけのテディベアを作っている。その大きさはまちまちで、手のひらよりも小さい子もいれば、抱っこできるくらいに大きな子もいる。大体は作った後、ほしいという人にあげたりするのだが、近頃そういった手作りのものを贈るという風習が少なくなってきているように思う。
「リボンを結んで……これでよし。今日があなたの誕生日だね」
出来上がったテディベアには、いつもリボンを結ぶ。リボンを結んだ日が作った子の誕生日になり、命が吹き込まれた日としているのだ。
今回の子は手のひらサイズにし、目の部分はレジン液でオッドアイ風に仕上げた。完成した我が子を眺め、伸びをしていると、突然テディベアから声が聞こえた。
『ご主人様、僕を作ってくれてありがとう!』
「え……?」
『素敵なリボンまでくれて、本当にうれしいよ!』
「あなたが……話しているの?」
いつの間にいたのか、沢山の下僕という名のぬいぐるみを大事そうに持った、『正義』の逆位置さんが自慢げに立っていた。今の声は彼女の声だったようで、普段の彼女の声よりも高い声であったことから、裏声で話をしていたのだろうと推測した。
「その者の声を、代弁してやったのだ!」
「この子の……? 逆正義さんはぬいぐるみの気持ちがわかるんだね、すごいじゃない!」
「その者からは、深い感謝と愛情を感じる……冥界の女王の気持ちそのものが宿っているかのようだ」
彼女はそう言い、テディベアに触れてもいいかを聞いてきた。快く了承すると、優しく抱き上げ彼女にそっと差し出す。同じく優しく受け取ると、彼女は目を細めて小さくうなずき、また私に返した。
「自慢のオッドアイを見てくれと言っている。余程気に入っているようだ」
「そうなんだ、私もオッドアイの子は初めて作ったから、喜んでくれてうれしいよ」
「……変だと、思わないのか」
「思わないよ、ぬいぐるみの気持ちがわかるなんてすごいことだもの」
彼女の持つぬいぐるみたちを見ても分かるが、とても大切にしている。定期的に日光浴をさせたり、時には一緒にお風呂に入ったり……必要であれば毛並みを整えたりしてとても丁寧に扱っている。そんな彼女だからこそ、ぬいぐるみたちと心を通わせることが出来てもおかしくないと思っていた。
「ものにも、心が宿っていると思えるということは、それだけ大事にできるってことだもの。否定するわけないじゃない」
「……ありがとう」
「その子、貴女をイメージして作ったのよ。貰ってくれる?」
私の言葉に一瞬驚いた彼女は、その後もテディベアに目をやり、やがて怪しく笑ってから受け取ってくれた。なんとなくだが、私にもテディベアの声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます