罪人の世界(吊るされた男の逆位置)
「主ちゃーん! 久しぶりだね、これ解いてくれる?」
「久しぶり……相変わらずなんだね、吊るされた男の逆位置さん」
久々の顔合わせにもかかわらず、開口一番足の紐をほどいてくれとせがまれるのは、彼からしかないだろうと思う。
無駄なことだということは、彼にもわかっていることだ。それでも口に出てしまうのは、癖というよりも防衛本能からくるものなのだろう。
念のために紐をほどいてみたが、解いたとたんに別の紐が彼の足を縛る。今回も無駄だったなと苦笑しつつ、引きずられる彼に合わせて私も歩きながら話す。
「主ちゃんたちはいいね、何物にも縛られていないし……」
「ん~……確かに肉体的には縛られてはいないけど、生活面とか心とかではかなり縛られてるね。自由にって生活をしているわけではないと思うよ?」
彼らの中では、人間ほど自由な存在はないと思われているのかもしれないが、人間側でも縛りは存在する。身を護る為であったり、国を守るためであったりと、経緯は様々だが縛られているという事には変わりない。その中でわずかに残された自由を使い、娯楽を楽しんで生きているのだろう。
「それはそうだろうね、主ちゃんたちの世界は罪人の世界なんだから」
「え、罪人……?」
あくまでもカードたちの概念上の話になるとの前置きをしてから、彼は言葉を続ける。
以下、彼の話。
前にも話したと思うけど、前世で犯した罪を償うために今があるんだ。生きる上で味わう苦しみや窮屈さというのは、過去に自分が他人に与えてきたもの。それが現世において返って来ているだけなんだよ。
それを人間は知ってか知らずか、拒み、遠ざけ、挙句の果てには他人に擦り付けようとする。そんなんだからいつまでも解放されないんだよ。
本当の解放を望むのなら、先ずは現状を受け入れること。その上で自分が何をすべきなのかを考えて行動することだね。
僕だってこの罪から逃れたいと思っているよ、でもそれは無理だということはよくわかっているんだ。だから僕は現状を受け入れようと努力をしているつもりだ。まだまだ足りないということも熟知しているけどね。
君たち人間も、その罪の意識を高く持った上で生きてほしいとは思うよ。
つくづく彼らの話を聞くと、人という生き物が如何に残酷な生き物であるのかを思わせる。
でも、それでも私は自分が人である以上は完全には否定できない。否定するということは、自分そのものを否定することになるから。
カードたちは私を慕い、信じてくれている。だからこそ、彼らの中にある人間の印象を、私が変えたいと強く思うのであった。
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