浮遊感を持つ(戦車の逆位置)

 彼はいつ見ても上の空、ぼ~っとしているように見える。

 然し突然やる気を出して周りを巻き込みながら突っ走ることもある。予測不能でせわしない人である。


「あ~主だね~」

「こんにちは、戦車の逆位置さん」

「車戦でいいよ~逆位置だから~」


 彼の話し方はこのように抑揚がなくふわふわとしている。それでいてどこかつかめず、認識もかなりずれていることの方が多い。

 彼自身はずれていてもお構いなし、寧ろそれが個性であるとまで思っているようだ。

 それも一つの考えだと思いながら、何となく自分のふわふわとした気持ちを作った。


「車戦さんは何してたの?」

「息を吸って吐くってことをしてるよ~」

「うんそれはただ単に息をしているってことだね」

「序に主と話してる~」

「私との会話は次いでなんかい、まぁいいけど……」


 本気で相手にする方が疲れるので、頭を空っぽにした状態で会話を続ける必要があるのだが、これがなかなか難儀である。

 どうしても素で突っ込みたくなってしまう為、気にしないようにしたくてもできない。


「あはは~主百面相みたいだね~」

「誰のせいだと思っているのか……まぁいいか」

「そうそう~力を抜いて考えればいいんだよ~……深く考えるだけ無駄無駄~」


 相変わらず抑揚のないふわふわとした話し方だが、彼なりに心配してくれているのかもしれない。

 彼はいつも、硬いから柔らかく生きようよ~と言う。それは自分でも思っていることで、柔軟な心を持ちたいとは思うが、性格などもあってか、どうしてもうまくいかない。

 そんな時に彼に会うと、変にではあるがふにゃふにゃと力が抜けて何となく頭が空っぽになる。


「主の心ってさ~おもりがいっぱいついているんだね~……それ重くないの~?」

「重り……?」

「そうだよ~? 主の心に重りがたくさんついているから、浮かべなくて堅苦しくなるんだよ~」


 彼曰く、私の心には数多の重りがついていて、浮かぼうとするたびにその重りが邪魔をしてとどめてしまうらしい。

 その重りは自分でつけたものもあるが、他人によってつけられたものもあるようで、それが外れない限り窮屈な思いは抜けないのだという。


「重りをぜ~んぶ外したら~いろんな所に飛ばされて大変だから~……三つくらいでいいと思うよ~?」

「そうだね、程よく重りがある方がとどまりたいところに居られるからね」

「主の場合はさ~いろんな人の言葉を一つ一つ考えすぎなんだよ~みんなそんなに考えながら発言していないと思うな~……」

「確かに、その人の言ったこと一つ一つに意味があるんじゃないかって思って……流すってことがなかなかできていないのかもしれないね」

「流れる川に身を任せるのもいいと思うよ~? 抵抗せずにその流れを感じればいいんだから」


 誰よりもふわふわしている彼は、そう言ってふにゃりと笑った。

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