04 性欲と青春
「ぎなっち、サークル入った?」
大学の講義が終わり、真っ先に講義室を出ようとすると声をかけられた。
同じ学部の同級生『北野ミナミ』だった。
彼女は青髪ショートで両耳ともピアスが開いている、いわゆるパンクスタイル。
ナギたちは当然のように学部内で孤立しており、結びつくのもまた当然だった。
「あー……入ってない」
入学式後に勧誘を受けた軽音サークルを思い出したが、記憶から消した。
「そっか、入らないのか」
「ミナミは?」
「絶賛、迷走中」
建物を出ると、じめじめとした熱気がまとわりついてくる。
「大学って言えば、青春じゃん」
「え?」
ミナミは夏の中でニタリと笑う。悪役のような笑みだった。
「青春って、こう、人とのつながりだと思うんだよ。面白い人とか、つまんない人とか、かっこいい人とか、ダサい人とか、センスある人、ない人、有能、無能、エロい、エロくない……そんな場所に飛び込んで、自分が居心地のいい『輪』を見つける。サークルって、それを体感する場所だろ?」
「そう、なの?」
「だのに孤独に過ごして、悲しいと思わんかね、ぎなっち殿」
我々はすでに学部内で孤立しているのでは、とナギは苦笑いを押し殺す。
「一理はあるわ」
「一理だけか?」
「二理ぐらいあるかも」
「もうひとこえ!」
「いや、なんのはなし?」
「適当な会話も大学生の特権さ」
ミナミは脊髄で生きるタイプの人間らしい。
「で、目当てはあるの?」
「うーん。それがどれもしっくりこないんだよな」
「しっくり、とは」
「例えば、青春できるサークルってなんだと思う?」
「……テニス、とか」
「テニスはだめ。飲むかヤるかしかない暇な集団」
なんという風評被害だろうか。
「バスケは」
「力の差があるとゲームが白ける。初心者が遊びでできるものじゃあない」
まともな回答。
「バレーボール」
「男が陰キャしかいない。そいつらが女に群がっててキモい」
風評被害その2。
「フットサル」
「性欲が強い人しかいない」
風評被害その3。
「野球」
「性欲」
風害4。
「あとは文化サークルぐらいしか……」
「文化ねぇ……オレ、ずっと運動部だったからなぁ……ぎなっちは高校、なにやってた?」
「あ、え? え、と、なにも」
「帰宅部? それもいいねぇ。自由が一番だ」
外でサークルの勧誘が行われていた。
大声で宣伝している——夏なのに元気だ。
「あーあ。この際、入らなくてもいいかもしれねーな」
「青春しなくていいの?」
「オレの青春は、簡単には手に入らなさそうだ」
「理想が高すぎるのよ」
「言ってくれるねえ」
ミナミはナギの背中を軽く叩いた。
「ま、いつか見つけてやるさ」
「青春って、自然とそうなるものじゃあないかしら」
「言ってくれるぜ」
その後、ミナミは『青春探し』と称して図書館に行った。
本を読まないナギは家路についた。
(ヒダリ、サークルとか入ってるのかしら)
帰り道には意味のない想像をするのが、ナギの習慣だった。
結論を得るのではなく、ただ思考するだけだが。
(入ってたとしても、花道や茶道のイメージね)
ナギはヒダリのことを、あまり知らない。
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