特別番外編

大晦日

 十二月三十一日。大晦日。今年もあと少し。


 桜宮家では毎年この時期になると、旅行に行くのだそうだ。


 ハワイであったりフランスであったりと。


 今年も今年とて、清香さんと宗二さんは旅行に行っている。だが、桜宮先生は日本に滞在したままだった。


 今年は俺と一緒に、のびのび過ごしたいらしい。


 そんな訳で、現在桜宮家。

 この家で働いている家政婦さん達も、今日はいない。要するに、二人きり──……と言うわけでもなく。


「シイナ、"たんけん"するのはもうやめにします。つかれました」


「疲れたのはあたしのセリフだけどね⁉︎ 家の中で迷子にならないでよ!」


 シィちゃんと楓も一緒だ。


 俺が大晦日は桜宮先生の家で過ごすと言った途端、楓が鬼のような形相で「これ以上、由美ねえに先越されるわけにはいかない!」とかちょっとよく分からない理由で一緒についてきたのだ。


 無論、幼女を家で一人にする訳にいかないのでシィちゃんも連れてきた次第だった。


「……くぁ」


「湊人くん眠いの?」


 欠伸を一つすると、隣に座る桜宮先生が小首を傾げてきた。ちなみに今いる場所はリビングだ。

 だだっ広いリビングのソファに、隣り合わせで座っている。


「冬休みの宿題を夜中までやってたので」


「そうなんだ。言ってくれれば宿題代行業者に頼んでおいたのに」


「相変わらず教師の風上にも置けませんね……」


 俺は呆れ眼で桜宮先生を見つめる。


「まだ年明けまで時間あるし、少し寝る?」


「そうですね……じゃあお言葉に甘えて」


 まだ年明けまで五時間以上ある。

 まぶたを落として仮眠体勢に移ろうとすると、頬に冷たい感触が走った。


「寝させる気ないんですか?」


 ぷにっと俺の頬に人差し指を突き付けてくる桜宮先生。


「違うよ。その状態で寝ても疲れ取れないでしょ。私のここ、空いてるよ」


「……そ、それはさすがに」


 トントン、と自らの太ももを叩く。

 膝枕をしてくれるつもりのようだ。


「遠慮しなくていいよ」


「遠慮というか恥ずかしいんですが」


「羞恥心を捨てないと大人になれないよ」


「深そうで浅い台詞ですね!」


「いいからいいから」


「だ、大丈夫ですって! そんな事したら、余計眠れませんから!」


「ねぇ湊人くん。私たちって、今更膝枕くらいで恥ずかしがる関係なの、かな……」


「……っ。そ、それは──」


 確かに、今更、膝枕程度を恥ずかしがる関係ではない気はする。クリスマスイブを回想する俺。


 お言葉に甘えて、桜宮先生の膝上へと頭を乗せ──ようとしたところで、ピシャリと鋭い声が飛んできた。



「──教師が生徒に膝枕とか絶対ダメだから!」



 見れば、俺よりも赤い顔をした楓がピシッと人差し指を突き付けている。

 すぐさま俺と桜宮先生の間に身体をすり込ませてきた。キッと猫のような目で、桜宮先生を睨む。


「由美ねえ。堂々とみーくんを誘惑しないで! ったく、ホント油断も隙もない。すぐ恋人みたくイチャイチャしようとするんだから!」


「あ、あのね楓ちゃん、私と湊人くんは正式に恋人だったりするわけだけども」


「本人達が勝手に言ってるだけでしょ」


「暴論だ⁉︎」


 滅茶苦茶な理論をぶつけてくる。

 本人達が言っていたら、それはもう事実だと思うのだが。


 驚愕に喘ぐ桜宮先生。


 楓は俺の左隣に座る。


「そ、そんなに眠いならあたしの膝使いなよ。みーくん」


 膝をパンパンと手で払い、俺に差し出してきた。

 どうやら、楓も俺に膝枕をさせてくれるらしい。


 睡魔も結構来ているしな。楓の厚意に甘えよう。


「じゃあせっかくだし」


「ま、待って! 湊人くん、なに楓ちゃんの膝枕堪能しようとしてるの?」


「堪能って……いや、眠いので」


「それなら私のを使えばいいでしょ。それもう浮気だから」


「従姉妹の膝枕で浮気認定されるんですか⁉︎」


「そうだよ。許されざる行為だよ!」


 ムスくれた表情で、不満そうに見つめてくる。

 ただ寝たいだけなのに……すごく面倒な事になってきた……。


「いやいや教師の膝枕の方が許されざる行為だから。みーくんのためにも、ここはあたしが一肌脱ぐよ。由美ねえはどっか行ってて」


「楓ちゃんこそ、従姉妹なら何してもいいって訳じゃないからね」


 視線で火花を散らし始める。

 俺が頭を悩ませていると、シィちゃんがとてとてと俺の元にやってきた。彼女の手には割り箸が握られている。



「こういうときは、"おうさまげーむ"です」


『王様ゲーム?』


 俺たちの声がハモる。


「はい。げーむできめてしまうのが、てっとりばやいです。"おうさまげーむ"でだれがミナトにいにひざまくらをするのかきめればいいとおもいます」


 ドヤ顔で胸を張るシィちゃん。

 俺は困ったように頬を掻きながら、


「王様ゲームって、そこまでしなくても──」


「王様の言うことは絶対。……だっけ」


「はいです」


 楓? 


「ってことは、湊人くんになんでも命令出来るってこと……?」


「そうですよ」


 桜宮先生? 


『よし、やろう!』


 気がつけば、楓も桜宮先生もやる気に満ちていた。……いや、普通にやりたくないんですけど…………。


─────────────────────


 お久しぶりです。

 私の別作品を読んでくださっている方は、いつもお世話になっております。


 今話は番外編ですが、クリスマスデートの回の続きという形になっています。


 明日の朝7:00過ぎにまた更新する予定です。

 新年明けてお忙しいとは思いますが、お時間ありましたら覗きに来てください。


 それでは、良いお年を♪ 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る